この記事は書籍「世界の基礎」の一部です。
表面的には人々の政治家を選ぶ権利や政治家になる権利が確保されているように見える制度であっても、それは直ちに民主制であると評価できるわけではない。ある制度が民主制であるためにはその制度が少なくとも以降に述べる条件を十分に満たしている必要がある。時にはそうすることに厳密になり過ぎないほうがいいこともあるが、その場合もそれらの条件からの逸脱が独裁化を確実に防げる程度にとどまるように細心の注意を払わなくてはならない。
民主主義において満たすべき主要な条件は以下のとおりである。
・投票及び立候補における自由の確保
・言論の自由及び知る権利の確保
・選挙の定期的かつ適切な頻度での開催
◇投票及び立候補における自由の確保
民主主義を実現するためにはまず民衆が選挙において投票及び立候補を自由に行えるようにしなくてはならない。例えば投票者が他者からの圧力が原因で自分の意思で投票先を決定することが困難になっていたり、ある候補者が対立候補や現職の政治家からの暴力によって排除されたりする制度については民主的であるとは言えない。また、政治権力を握る者が投票権や立候補権を持つ者を自身の都合で定めている制度も同様に非民主的である(※選挙を開催する独裁国家ではこのケースが多くみられる)。従って民主制を実現するためには、投票が匿名で行われるようにし、なおかつ現職政治家が私的に武力を行使したり選挙制度を恣意的に構築したりして対立候補を排除することができないようにしなくてはならない。
◇言論の自由及び知る権利の確保
民主主義においては言論の自由(表現の自由、報道の自由、学問の自由等から成る)の確保も大切である。言論の自由が失われると政治家への批判が行えなくなり、人々が社会に現政治家の問題点を知らしめることができなくなる恐れがある。そうなれば政治家は批判されずに自身が持つ権力を自身のために扱うことが容易となり、実質的に民衆から国家の最高権力者としての地位を奪うことが可能となるだろう。
また、人民の知る権利の確保も民主的統治を実現する上では必要不可欠である。もし政府が自身に関する情報を隠蔽するのであれば、人々の政府を適切に統制したり運用したりする力が弱められることとなる。従って民主国家の政府は人々に対してその内情に関する情報をやむを得ない例外を除き公開するようにしなくてはならない。
◇選挙の定期的かつ適切な頻度での開催
最後に、選挙が定期的に実施されることも民主主義には必須の条件である(※あらかじめ定められたルールに従うのであれば完全な定期である必要はない)。一度選ばれた政治家が永続的に政権を握り続けるのであればそれは独裁である。選挙が定期的に開催されるからこそ、国民が政治における最高権力者で在り続けることができる。
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