世界平和実現構想+α

世界の平和を実現するための方法を考えます

権力分立を維持するための努力

この記事は書籍「世界の基礎」の一部です。

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権力の集中と分立のバランス調整

権力はただ分立させればよいというものではない。その分立の程度が過度であれば、国政は停滞し国が社会に必要な改革を行うことができなくなる恐れがある。権力分立と権力集中のバランスは実際の政治の様子を見ながら取らなくてはならない。権力分立の弊害が大きければ権力の集中を検討する必要があり、権力集中の弊害が大きければ権力の分立を検討する必要がある。だが権力の分立による弊害は独裁化を防ぐためにもある程度受容するのが当然であり、独裁体制になり得る水準まで権力を強化することは絶対に避けるべきである。

幸いにもこれから民主化する国は自国の権力の分立の度合いをすでにある民主国家の経験を参考にしながら決めることが可能である(※ただし、国家の規模やその他の性質によって適切な制度に差が出るという点には注意しなくてはならない)。

権力分立の弊害とその対策

権力が分立されている体制では、政治家が自身が支持する政策を自身が持つ権力だけで実現することが困難か不可能になっている。もしそのような体制においてある者が特定の政策を実現したいのであれば、多くの他権力者を説得してその政策への支持を得なくてはならない。それゆえに権力分立の考えが採用されている国家においては、ある政策を実行するために必要となる時間は単独個人あるいは組織が政治の全権を握る場合よりも長くなる傾向がある。

このことは各問題に対して熟議を促すというメリットもあるが、緊急に対策をしなくてはならない問題が発生した場合には意思決定の遅さが害を生じ始める恐れがある。そしてそのような自体を防ぐ方法としては以下のようなものが考えられる。
・政治家の意識改善
・自動対応システム構築
・権力の強化
ただし、最後の「権力の強化」については独裁化を防止するためにもできるだけ避けることが好ましい。


◇政治家の意識改善
国民は相手の話を聞かないような人間を政治家にしないようにするべきである。また、高い能力を持ちなおかつ民主主義を維持するために必要な要素(他者の話を聞こうとする態度も含む)を兼ね備えた者は、他者の話を聞かないような政治家候補に人々の支持が集まることを防ぐためにも、自ら正当であるにも関わらず既存の政治家には拾い上げられていない声を積極的に拾い上げる政治家となる必要がある。そうすれば一部の人々に極端な不満が溜まりそれらの人が過激な候補に票を投じ始めることを防止することができる。もちろんその際にはあくまで正当な主張に限って支持するべきだが、道徳的な問題があるなどの理由で賛同するべきではない主張ばかりをする人々に対してもその主張の背景にある不満については解決を目指すことを約束できるかもしれない。

政治家は幅広い分野についての理解を深めておくべきである。それにより政治上の各問題について議論する際に新たに身につけなくてはならない知識を削減することができ、それは意思決定速度を向上させることに繋がる。また、政治家は時に自らの考えに完全には一致しない政策であっても、より大きな社会的損失を避けるために承認しなくてはならない場合もあると考えておいた方が良いだろう。
 

◇自動対応システム
政府の手足となる組織に対してあらかじめある程度の権限を与え、更にその行使に関するルールを課しておいたのであれば、何らかの国家が対応すべき問題が社会に生じた場合に、それらの組織が自動でそれに対処することが可能となる。

◇権力の強化
政治家は民主主義とは時間がかかる物だということを受け入れ、自らの思い通りにするために権力を強化することに対して抑制的になるべきである。(先述の緊急事態条項の設置等を通して)権力を強化すれば対話による同意を得ずに実施できる政策が増大するが、それが認められるのは相応の必要性があるときに限られる。そして、どうしても特定の個人あるいは組織の権限を強化しなくてはならない場合には、その強化の範囲をできる限り小さく留めるようにしなくてはならない。

 

 

権力変更権の取り扱い

「政治権力を有する機関の権力の内容を変更する権限」の取り扱いには十分に慎重になるべきである。もしその権力が「民衆と民衆の代表のいずれでもない勢力」や「民衆によって選出されはしたがその構成が民衆の一部に過度に有利となるように偏っている集団」に握られた場合、民意に基づく政治権力の内容の変更が政治的特権を持つ一部の者達によって実質的に不可能にさせられる恐れがある。また、民衆の代表が権力変更権を握る場合も、それを行使するための条件が厳しすぎれば制度的に認められた正当な手段では制度を改めることができなくなる点に注意しなくてはならない。

権力分立を機能させるための努力

政治の制度を作る際には現実的に生じうる範囲の権力の暴走には実際に対処できるようにすることを目指さなくてはならない。国民、学識者及び政治に携わる者は現行の制度にそれができているかを継続的に確認し続けるべきであり、もしそれができていないと考えられる場合には速やかに制度を改善しなくてはならない。また、国民が十分に民主主義を理解していなければ、国民によって選ばれる政治家も非民主的になりその国の民主制が崩壊するのは時間の問題となる。権力分立を機能させたいのであれば国民自身が民主規範について高度に理解するようにしなくてはならない。

政治権力を握る人々の内一部が急速に力をつけることが可能な制度となっている場合は、他の多数の人間による政治の民主的是正の動きが間に合わない可能性がある。従って民主主義を維持したければ原則として特定の個人が短期間で極端な力を持つことが不可能となるように制度を設計しなくてはならない。やむを得ない事情により少数の人間に大きな政治的権限を渡す場合には必ずその外部からの統制についても強固なものとするべきである。

◇権力分立は制度だけでは機能しない
日本の国会は国権の最高機関であると憲法で定められており少なくとも形式的には他機関に比べても強い権限を持っている(※ただし、日本の学術界においては日本国憲法の「国会が国権の最高権力機関である」という規定は実際には国会が他機関より上位に位置することを意味するものではないと捉える見方が主流である。)。そして国会はその気になれば、権力分立によりいくらか困難さが伴うにしろ最終的には他権力機関からの抑制を無視することが可能であると考えられる。なぜならば国会は自らに都合の良い人間を行政のトップに選び、さらにはその人間を通して司法の人間についても同じようにすることで、他機関からの権力の抑止を防ぐことができるからである。この事実は言い換えると国会に対して権力の抑制が十分に働くのは国会に民主主義を自ら尊重しようとする意志が適切に備わっている場合に限られるということであり、国会がその態度を忘れた場合にはその抑制を振り切ることができるのである。従って国会がもし独裁を行おうとする機関になり果てたのであればそのときは他機関がそれを支持するようになるのは時間の問題である。そしてもし実際にそのような状態になれば、国民の権利を制限する法律を制定することも国民を弾圧する政策を実施することもできるようになり、やがては選挙制にも魔の手が及ぶこととなるだろう。

以上のように国会が独裁的な政治を行い始めることを防ぐためには、国会への圧力をその外部からのみならず内部からもかけなくてはならない。そしてそのためには国民は選挙において民主主義を守る意志のある人間のみに票を投じる必要がある。日本に住む人々の間でも多くの政治的な対立が存在するが、日本国民はその対立に惑わされて民主主義の維持という共通の目的を忘れるべきではないし、政治家の民主主義に違反する行いを過小評価してもならない。目先の利益に囚われて民主主義を破壊しかねない候補に票を投じるようなことは絶対にさけるべきであり、同時に民主主義を積極的に守ろうとする候補に優先して票を投じるべきである。もしまともな候補がいないというのであれば自ら選挙において立候補しなくてはならない。議会が独裁的人間に占められたのであればそれは国民の責任である。

 

 

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