この記事は書籍「世界の基礎」の一部です。
私自身現時点では慈悲を十分には身に着けていないため、今の私によって書かれた以下の方法は今後さらに改善されることが望まれる。
・他者の不幸の解消を心から求めるためには、その人が持つ不幸をよく認知するようにすれば良い。その際には相手の持つ苦しみの内容とその原因をより詳細に把握するように努めると、その苦しみを自身のものとすることが容易になる。ちなみに幸福への渇望がある状態も不幸の一種である。
・他者の幸福を願うには他者が幸福を実現した状態を想像すればよい。そうすれば、自ずと自らの内に相手の幸福を望む気持ちが生じることとなるだろう。より実感できる形で他者の幸福を想像するには、その人が抱く望み(当人に自覚があるとは限らない)を知り、その人がそれを実現した状態を想像すると良いかもしれない。欲に飲まれることは不幸であるが、欲を満たすことで幸福になれることがあるのも確かである。ただし、ときには欲を捨てることで満たされた状態となった方が良いこともある。
・自身や他者の幸福の実現や不幸の解消は道徳に反さない形で行われる必要がある。もし、よからぬ方法でそれらを達成しようとする者がいるのであれば、それ以外の者の不幸を防ぐためにも、その人がそれを改めることを促さなくてはならない。
・慈悲というのは容易には自身に定着しない。もしそれを確実に自己のものとしたいのであれば、適切な頻度で慈悲の念を他者に向けるために自分自身の心の内を見つめなおすようにするべきである。
・慈悲の気持ちを持つためには、不幸な人がいる場合に実際にその苦しみを取り除くための行動を起こすようにすることも大切である。慈悲は行動を伴うことで確固たるものとなるだろう。ただし対象を逆に苦しめる自己満足に過ぎない行動は起こさないようにするべきである。
・常に自身の言葉に相手を傷つける棘がないかに注意を払い、もしそれがあるのであればそれを取り除く努力をするべきである。それを怠るとそれにより生まれた隙から慈悲が崩れることになる。ただし、これはあくまでも自分自身に求める行いであり、細かい気遣いについては他者にそれを強いてはならない。まさにいま私が行っているようにそうすることの推奨についてはときに行うこともあるが、それも他者に対する押しつけにならない範囲に留めるべきである。
・慈悲は無理して持たなくても良い。例えば、自身や自身が大切にする存在が極めて重大な損害を害意を持つ他者によって与えられた場合には、まずはそれらの被害者の精神的な傷を癒すことを優先するべきであり、無理に加害者に対して慈悲を持とうとしてその傷を広げる必要はない。先ほどの慈悲に例外を作らない在り方はあくまで理想であり義務ではない。
・自身に対して罪を犯した者を自身が納得できないうちから無理にゆるそうとする必要はない。どうしてもゆるせない人がいるならゆるさないと決めてしまうのも一つの選択肢である。ただしその場合も復讐として正当でない攻撃を罪を犯した者に加えることについては後の自身が自らの罪に苦しまないようにするためにも避けるべきである。
補足:ここでいう「ゆるす」とは罪を犯した者に対して「恨みや怒りの念を抱くのを辞めること」を意味する。それらの気持ちを持ち続けると決めた場合は、相手に対しては完全な慈悲は持てないが、それでもある程度の慈悲を持つことはである。また、時には「謝罪や償いを求めることの放棄」をゆるしということもあるかもしれないが、それをすることは慈悲を持つ上で必須というわけではない。ただし相手に求める償いは適切な範囲に収めなくてはならない。
・言葉を唱えることは自らの潜在意識を変化させる。生きとし生けるものすべてが幸せでありますようにと口に出してあるいは心の中で唱えると、普段の思考もやがて本心からそれを願うようになる。自身の嫌いな存在に対して大切に思う気持ちを生じさせたいのであれば、その存在の幸せを願う言葉を何度か同じように唱えると良い。
ちなみに慈悲を持つためのこのような方法は慈悲の瞑想と呼ばれ、チベット仏教や上座部仏教に見られるものである。慈悲の瞑想を本格的に行うのであればまずは「私が幸せでありますように」「私の苦しみがなくなりますように」「私の願いが叶いますように」「私が幸せでありますように(最初と合わせて二回唱える)」と唱え、次に「私」の部分を自身の大切な存在を示す語に置き換えて同じことをし、更にその後生きとし生けるものすべてに対して同じことをし、余裕があれば自身の嫌いな存在に対しても同じことをすると良いらしい。おそらくそうすることで自分やその大切な存在の幸せを願う際に生じる本心からの慈悲を、自身と無関係な存在や自身が嫌いな存在に紐づけることができるのだろう。なお、慈悲の瞑想は時間をかけて何度も行わずとも、日に数回気の向いたタイミングで行うだけで効果がでる。
<<前の記事|一覧 |次の記事>>