世界平和実現構想+α

世界の平和を実現するための方法を考えます

権力分立の形態【権力主体の数、各権力機関内における権力分立の重要性】

この記事は書籍「世界の基礎」の一部です。

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権力の数

現在の民主国家においては政治権力を立法、司法、行政に分けて存在させる制度が主に採用されている。しかしこの権力を三つに分ける考え方は絶対的なものではなく、権力の暴走を十分に抑止できるのであればその数は必ずしも三つでなくとも良いと考えられる。例えば現中華民国(台湾)には高いレベルの民主主義が備わっているが、そこでは中国の革命家孫文の思想に基づき五権分立という制度が採用されているようである(※ただし、台湾の民主主義の質の高さが五権分立によってもたらされているとは限らない点には注意するべきである)。また、同様に権力の暴走を十分に阻止できるのであれば、議院内閣制に見られるような立法を担う機関と行政を担う機関が完全には分立していない制度であっても問題はない。

 

権力分立の手順

政治権力を複数に分けて存在させる際には、まず政治権力全体をどのように分割するかを決定し、次にその分割によってつくられる各権力の運用者となる機関をそれぞれ考える。そしてその後それらの機関に付与する「他の権力機関への抑制権」を適切に定めなくてはならないが、その際には各機関が他機関から十分な抑制を受けているかどうかを検証し問題があればそれを修正するように最新の注意を払わなくてはならない(※全体的に見ていずれかの機関が暴走した場合に十分にそれを鎮圧することが可能となっているのであれば、各機関に他の全機関への抑制権限を持たせる必要はない。)。

また、現行の権力分立体制からさらに多くの権力が分立する体制に移行する際には、最初に既存の権力の一部を分離して新権力を作るかその時点まで存在しなかった全く新しい権力を作成し、次にその権力を「それを運用するために作られた新たな機関」あるいは「その運用者として認定された既存の機関」に付与するとよい。そしてそれに続き必要に応じて新権力を持つ機関に他機関への権力抑制権を付与し、更にはその新権力を持つ機関への権力抑制権を他機関に十分に持たせるべきである。逆に権力の数がより少ない体制に移行する際には、まず初めに廃止する権力機関決定し、次にそれが持つ権力を他機関に継承するかそれをせずにその権力自体をも廃止するとよい。


時間分散的権力分立

以上で触れた考え方では複数の機関にそれぞれ異なった種類の権力(ある権力を分割することで作られた権力)を与えることによって権力分立を実現しているが、権力を分割し複数の存在に持たせる方法としては「同一機関を異なる複数の時間帯ごとに別の機関と見なし、そのそれぞれに対して特定の権力を分割して与える」というやり方も考えられる。例えば、行政府が司法府の人員すなわち裁判官を任命する制度を採用する国において、行政府が入れ替わるごとに裁判官の全てを任命しなおせるような制度がある場合は、それぞれの時期の行政府の任命権は非常に大きなものとなる。しかし、行政府が裁判官を任命できるのが、裁判官があらかじめ定められた任期を終えたときに限られているのであれば、それぞれの時期の行政府が持つ裁判官の任命権の大きさは限定されたものとなり、ある時の行政府がその権限を悪用したのだとしてもその影響を一部に留めることができるのである。また、実用的かどうかはともかくとして理屈の上では、「定期的に権力が任される機関を変更することによって権力分立を実現する」ということも考えられるかもしれない。


単一組織内での権力分立

分立された各権力の内の一つのみが暴走した場合には、他権力が自らに与えられた抑制権を用いることでそれを事前の想定通りに抑えることは容易であるかもしれない。しかし各権力の内の複数が同時に暴走した場合には抑制と均衡はうまく働かなくなる恐れがある。それを防ぐためにもやはりそれぞれの機関自体に暴走を防ぐ(あるいは暴走が過度になりがたい)仕組みを内包させることが好ましい。

立法府、司法府、行政府における組織内の権力分立

・立法府
立法府においても権力を濫用しようとする議員が現れるおそれがあるが、そのような者が表れた場合にそれが立法府全体の暴走に繋がることを避けるためには議会内部においても十分に権力を分立する必要がある。そしてそのためには、各議員の自主性を適切に保ち、議員の一部に過度に権力が集中することのないようにしなければならない。例えば政党の党首がそこに属する議員の意志を自在に縛れるようにすることはなるべく避けるようにした方が良いだろう。また、立法府内部での権力分立を実現するその他の方法としては二院制の採用等が考えられる。

・司法府
裁判は一人の裁判官ではなく複数人からなる裁判官によって行われるべきである。もし裁判が単一個人によって行われるのであれば、その個人の破綻は直ちに裁判の破綻となる。しかし複数の裁判官が裁判を行うのであれば、その中の少数がその権力を誤用あるいは悪用しようとしてもそれを失敗に終わらせることができるだろう。また、違憲審査等の重大な審理においては情報の見落としを防ぐためにもより多くの人数によって結論を出すことが好ましい。

・行政府
行政府は他機関以上に臨機応変な対応をすることが要求されることから、その意思決定にかかる時間は過度なものとならないようにする必要がある。従ってその内部における権力の分立はそれを行う場合でも限定的なものとなるようにしなくてはならない。しかし一方で単一の個人が完全に一人で行政権を行使できる状態には相応の危険が伴うことになると考えられる。そのため行政内部においても個人が独断で物事を決めることが行い難くなる仕組みを適度に用意することが好ましい。

 

権力の分離と人の分離

権力分立では権力を分割して捉えることだけではなく、分割された権力をそれぞれ別の人間が持つことも重視される。何故ならば、同一人物が分割された権力の全てを持つ場合、結局は権力を持つ者がその権力を悪用したときに外部の他権力からの抑止が行われない状態に変わりはなく、権力者の権力が大きいことからその人が権力を濫用し始めたことによる悪影響の大きさも大きいままだからである。ただし議院内閣制では後に説明するように立法権と司法権の間の人の分離については厳格ではないことが容認される。

 

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