この記事は書籍「世界の基礎」の一部です。
民主化運動における基本理念、方針
徹底的情報収集と考察
民主化運動を指導する者はそれを成功させるために幅広い情報収集とあらゆる手段の検討を行わなくてはならない(もちろんここには道徳に反さない範囲でという条件が付く)。そして、その際には世界の過去の民主化運動の成功例や失敗例から学ぶことが大切である。例えば歴史を見れば民主化した国がしばらくして独裁体制に戻る例が数多く存在するが、その事実を知っておけばあらかじめそれに何らかの対策をしておくことができるかもしれない。また、民主化に関する情報収集や考察を行う際には必要に応じて複数人での協力を行うべきである。そうすれば個人では解決できない問題を解決し、見落とすべきではない問題を見落とさないようにすることができる。
全体的かつ長期的な視野を持つ
民主化を求める勢力の指導者はその目的が達成された後の行動についても早い段階から考え、民主制の実現後に国民がそれに失望することのないようにするための努力を行うべきである。民主化することで何らかの問題が発生することが想定されるのであれば事前にそれに対策をしておかなくてはならない。
民主化の賛同者を増やすこと
民主化を成功させるためにはとにかくより多くの人間を賛同者にすることが大切である。そのためには、現時点で民主化に無関心であったり独裁政権を支持していたりする人に対しても侮辱するようなことは避けなくてはならないし、憎悪で相手を変えようとするべきではない。また、人々を説得するためには、なぜ民主主義が好ましいかということについてもよりわかりやすく説明するように努めなくてはならない。時には実際に民主主義にもデメリットがあることを認めなくてはならないかもしれないが、その場合はデメリット以上のメリットを示すことで説得すると良いだろう。
非暴力不服従
民主化の際には非暴力不服従という手段を取ることが考えられる。民衆が暴力を使って現政権を打倒しようとすることは多くの場合現実的ではない。何故ならば、いくら一般の国民が集まってもそれと比較すると圧倒的に装備が充実している国家の軍隊に武力でかつことはほとんど不可能だからである。従って民主化を目指すのであれば基本的には、「言論によって既存の政府に自ら民主化を推進することを促したり軍を含む国家の手足に対して民主政府以外には従わないように説得したりする」あるいは「不服従によって相手の権力を強制的に無効化する」といった方法をとることが好ましい。
民主化を支持する人々が政府による残虐な弾圧を受けたときに行うべきことは同じような手段でそれに対抗することではなく、嘘や誇張を交えずに政府が行った行為を社会に知らしめることである。そのようにすれば自ずと民主勢力の支持者は増えて行くことになるだろう。また、もし民主主義を支持する勢力の中に過激な行為を行う組織が生じた場合には、他の民主派勢力はその組織に対して明確な批判を行うべきである。
非暴力の態度は相手を暴力的にすることを抑制する側面もあるかもしれない。実のところ独裁政権の内部の者やそれを支持する人々の中にも多くの場合良心が存在する。従って、ある人が民主化を訴える際に平和的手段を用いるのであれば、民主主義に否定的な人々にとってもそれを暴力的な手段で排除することは容易ではないのである。逆にこちらが暴力的手段で民主化運動を行う場合は、独裁政権及びその支持者はその活動に対して暴力的な弾圧を行うことを容易に正当化できるようになるだろう。
補足:以上の非暴力不服従関する主張は武力を用いた民主化を無条件に全面的に否定するものではない。例えば、何をやっても独裁者への加担を辞めようとしない軍が存在する国においては、その内部の民主化賛同勢力をできるだけ取り込むようにしつつも武力によって体制転換を図るしかない可能性がある。ただし武力によって体制転換を図る場合、武力によって抵抗を行った組織が新たな独裁組織となることのないように十分に警戒しなくてはならない。
民主化の手法
支持の拡大
・草の根運動、はじめの一歩
民主化を目指す場合は地道に支持者を増やしていくことが大切である。まずは家族や友人の説得から始めると良いだろう。それは大きな力を持たない一般人にもできることである。
・説得の方法
民主主義を広める際には、他者に対してその思想が正しいと言える理由をより分かりやすく、より核心をついいた形で説明するように努めることが大切である。真に優れた思想は一度人々の間でそれへの十分な理解を伴った形で支持されるようになると、権力者の都合でその状態を覆すことは、政府と民衆の間に大きな情報発信力の差がある場合にも極めて困難である。
・より多くを罪をゆるすこと。
ある人をその人が独裁制を支持していた時期があることを理由に侮辱することは既に述べた通り控えるべきである。また、独裁体制下において民衆への弾圧に加担した者についても、それによる過ちの程度が軽微であったりその行為が自らの意志に基づかなかったりする場合には責め立てたり罰を与えたりしないようにするべきである。もしそうしなければ自らへの非難や罰を恐れて民主主義の拒否に固執する者が増加し、かえって民主化は遠のくこととなるだろう。
権利の拡大
・部分的権利の獲得
民主主義の賛同者が増えてきたら、今度は民衆の権利の拡大を推し進めるべきである。とはいえ、強固な独裁体制が確立している国では、いきなり公正な選挙の実施を求めることは困難かもしれないのでまずは政権に民衆の権利を部分的に認めさせることから始めると良いだろう。そして、その際に獲得を目指すべき権利は言論の自由等の明らかに民主主義に必要なものばかりに限られない。民主主義と直接的には関係のないように見える権利であれその獲得を目指して活動することは人々に政府を変えるための技術を身に着けさせることに繋がるし、実際にそれに成功すれば民衆の側に政府を変えることができるとの自信を与えることができるからである。
・広い支持を集めやすい権利の獲得から目指す
独裁体制の支持者や中立者からも賛同を得やすい権利は政権にそれを認めさせることが比較的容易である。何故ならば独裁者にとってそれを否定することは、自身の既存の支持者を反体制派に転向させたり、民衆の間に潜在的な不満が新たに蓄積されたりすることに繋がるため好ましくないからである。
・権利の拡大における注意点
以上の過程においては、もちろんある権利を確保するためにそれ以上に大切な権利を失わないようにするべきである。また、一度得た権利が再び奪われることのないように、その権利が認められた後も根強く民衆の権利や民主主義の拡大のための活動を行い続けるべきである。
・あきらめないこと
ときには権利の拡大を求めて行動したはずが、逆に権利が縮小するということもあるかもしれない。しかし、その場合でも民主化運動の参加者が絶望する必要はない。活動の過程で以前よりは確実に民主主義の支持者は増えているのであり、表面的には民主化が後退したかのように思えても実際にはそれは進展しているのである。その後も継続的に民主主義を広めるための活動を行い続けたのであれば、次に民主化運動が盛り上がったときにはそれを成功させることが可能となるだろう。
◇独裁者の願望成就を阻害することによる権利の拡大
特定の権利を求める運動を行う際には、デモ等を行うことも社会に要求の内容を認知させたり人々の間でそれへの支持を広げたりするという観点から有効ではあるが、それだけでは実際に独裁政権に民衆の要求をのませることは困難である。
人々が独裁政権に何らかの要求をのませるためには、人々の内の多くが特定のタイミングで一斉にその要求の内容を呈示したうえで、それが受け入れられるまでの間道徳的かつより多くの人の支持を得やすい形で政府の願望が成就することを阻んだりその願望が満たされた状態を崩したりする動きをするとよいだろう(このとき相手がとりわけ強く実現を望む相手の目標の達成を率先して阻むようにすることで運動の効果を高めることができる)。そうすれば政府は自身の望みを達成するために民衆の要求をのまざるを得なくなるはずである。
もちろん民衆による抵抗に直面した独裁政権は自身の体制の転覆を防ぐためにも容易にはそれらの要求を呑もうとはしないことが予測される。しかしその場合でもその願望を阻害する運動を政府が無視することができないレベルにまで拡大すればやがては抵抗者の要求は押し通すことができるようになる。また、独裁政権内部においても様々な立場の人間がいるのであり、その場での支持を得ることが必要な者は独裁制を維持するためという理由で民衆の要求をなんでも無視しようとするということは不可能である。
◇リスクの低減
民主化運動の参加者を増やすためには、人々がその運動に参加することによって生じるリスクを減らすことが重要である。そしてそのための方法の一つとしては、「民主化運動を実施する際は、多人数が協力して一斉にそれに参加するようにする」というものが考えられる。
例えば、一度のデモにおいて10人の人間を拘束することができる集団に10人以下で立ち向かった場合、各個人が拘束される確率は100%である。しかし、その確率はデモの参加者が100人、1000人…と増えて行くにつれて、1/10、1/100…と下がっていくのである。もちろん現実はこんなに単純な計算で捉えられるわけではないが、それでもこのことからは一度により多くの人間でやれば各参加者のリスクを下げることができることが理解できる。そして、このような方法で民主化運動の参加者の各個人に生じるリスクを減らせば、それまで恐怖心から表向きは中立の立場を保っていた民主化の賛同者のその運動への参加も増えることにも期待できるはずである。
以上の理由から、民主化運動を行う際には、それをできるだけ組織的あるいは集団的な活動として行うようにするべきである。また、明示的な抵抗運動をする際には必要に応じて事前に他者とそれを同時に行うための約束をしておくようにすると良いだろう。
・抵抗運動であると判定するのが困難な抵抗
明確に反体制的な活動を行うことが難しい場合は、それが抵抗運動であると判定することが困難な方法によって独裁政権に抵抗すると良い。それもまた弾圧されるリスクを抑える方法の一つである。
◇交渉について
民主派勢力の代表者と独裁政権の間で行われる交渉においては、民衆の抵抗力を手放すことに繋がる合意は行わないほうが良い。民衆の抵抗力が存在するからこそ政権にそれに不利な合意を履行させることができるのであり、それがなくなれば権力者に都合の悪い合意は容易に破られるようになるだろう。交渉で目指すべきことがあるとすれば、それは独裁体制から民主体制への移行を円滑に行うための合意を形成することや、民主化の流れが確実なものになったにもかかわらず抵抗を続けて社会により多くの被害を与えようとする独裁者に対してその身の安全を確保する代わりに自らその抵抗を辞めさせることである。ただし、残虐な弾圧を行った独裁者やそれに加担した者については後に法的な罰を与えることが望ましいのであり、それをしないということはやむを得ない場合に選択するものである。私の個人的な考えでは強度な公益性がある場合には遡及処罰を行うことを容認しても問題はない。
交渉の合意については後の信用を損なわないようにするためにも安易に破るべきではないのが通常である。しかし独裁者に対しては前提としてその人との合意は破られるものであると考え、事前にそれが起きた場合への対策をしておくべきである。
補足1:残虐な弾圧を行ったわけではない独裁者については、民主的に成立した独裁を禁じる法を破ったわけでなければ、単に民主主義者との間に思想信条に違いがあっただけであると言えるため、その人を有罪とすることは少なくとも私の個人的な考えにおいては適切ではない。
補足2:どうしても権力者の内に法的に裁かなくてはならない者がいる場合には、その周囲の人々に対してそれらの罪をある程度まで見逃すことを条件にその権力者の打倒に協力することを要請すると良いだろう。
◇突発的政権打倒運動が起きる条件
民衆の間で独裁政権への不満や民主主義を支持する気持ちが潜在的に高まっているときに、何か人々の心を大きく動かすような出来事が起きた場合には自ずと社会の多くの人間が参加する政権打倒運動や民主化運動が起こることがある。そのような出来事がいつおきるかは事前に予測できないことが多いが、それが実際に起きたときに立ち上がり始めた人々の手助けをできるようにあらかじめ何らかの準備を行っておくのも良いことかもしれない。
民主化過程における軍や警察の在り方
民主化の過程において軍の一部が民主派勢力の下につき、独裁体制につく軍の残りの部分と戦うことは多くの犠牲者を生むので好ましくない。従って、民主化に賛同する軍人やその集団は、まずは軍内部で「民主主義の支持」や「独裁政権への不服従及び将来的な民主政府への服従の態度」を広めることに努め、十分な求心力と統治能力を持った民主政府が設立された場合に軍のより多くの部分が一斉にそれに従うようにするための準備を行うとよいだろう。
・弾圧緩和のための不服従あるいは非効率的服従
民主主義を支持する軍人や警察官がデモ隊などの取り締まりに駆り出された場合には、わざと非効率にそれを行うことで抵抗すると良いだろう。
公的機関の民主化
・公的機関の民主化のために必要なこと
民主化においては、軍や警察に限らず政治の実行部隊である各種機関を「独裁政権への不服従」及び「民主政権への服従」の態度を取るものに変化させる必要がある。また、民主派勢力は民主化が達成される前の段階から、それらの機関が後に民主政府が成立した場合に速やかにその指示に基づいて行動できるようにするための準備をしておかなくてはならない。
・長期的浸透
官僚組織や軍隊、警察等の公的な機関の構成員になるのは市民である。それらの内部にはもちろん一般の市民には就き難い地位というものが存在するかもしれないが、それでも民主主義を支持する者がその事実を隠してそれら機関に就任することはある程度までは可能である。そしてそのように民主派勢力が政治の実行部隊内部に浸透することを長期的に行い、然るべきタイミングで民主化を促すために活動することも民主化の達成に大きく有利に働くと思われる。
絶対に独裁体制を維持し続けようとする人々への対処
民主主義への支持を広げるための努力を十分に行ったうえで、それでもなお絶対に独裁体制を維持し続けようとする権力や武力を持つ個人や集団がいる場合には、外部から強制的にそれらの人々の力を停止させることを考えなくてはならない。例えば、権力の座に固執しようとする者に対しては、それに従う人々を「独裁者に従わないようにする」あるいは「民主政府に従うようにする」ことで、その権力を強制的に廃絶する必要がある。また、ときには軍、警察の中にどうしても独裁者に従い続けようとする者がいることもあるかもしれないが、その場合は後に民主政府が設立された際にそのもとにつく軍や警察によって強制的に鎮圧することを検討するべきだろう。あるいは民主制を否定しそれを破壊しようとし続ける軍部については、それらへの物資の供給等の支援を断つことなどによっても対処することができるかもしれない。
ただし、民主化を阻むものを武力を用いて鎮圧するということについては、それをする必要性があるのだとしても極力民主主義を支持する者が社会において圧倒的な多数派となるのを待ってから行うようにしなくてはならない。もし民主化を急いで強硬な手段を早い段階から行おうとすると、社会に混乱をもたらし逆に民主化の流れを後退させるおそれがある。やむを得ず民主主義への支持が広まっていないにも関わらず急いで民主体制への移行を進めなくてはならない場合もときにはあるかもしれないが、基本的にはそれはできるだけ多くの人々の支持を得てから実現するべきである。
円滑な民主制への移行及び迅速な選挙の実施
・権力の空白期間の発生の防止
民主化の実施に当たっては権力の空白期間を生まないことが大切である。 そのためにも民主化を果たす際には「独裁体制→無政府状態→民主体制」ではなく「独裁体制→民主派勢力と独裁政権の民主化を実現するための共同体制→民主体制」あるいは「独裁体制→民主体制」のいずれかの流れをたどることが好ましい。民主化の過程においては社会の治安の維持のためにも統治者不在の期間がないようにしなくてはならない。また、公務員については、独裁政権に対する不服従を実践する場合においても、本当に継続しなくてはならない業務については継続するようにしなくてはならない(例えば民主化運動の弾圧とは無関係の通常の犯罪者を取り締まるための業務などがそれにあたる)。
・選挙の実施
社会において民主主義への支持と民衆の権利の拡大が十分に進みいよいよ民主制へ移行する準備が整ってきたのであれば、次に求めるべきは公正な選挙の実施である。
そしてそのためには既存の政権に対して外部から圧力をかけたりその内部で民主派勢力を拡大したりすることで、それに選挙を実施すること認めさせると良いだろう。ただし、選挙の実施に当たってはその時の政権による不正を防ぐためにも十分に民主派勢力がそのプロセスに関わるようにしなくてはならない。また、選挙を実施に関わる人々は当然独裁政権に限らずあらゆる勢力による不正を防ぐことも考えるべきであり、そのためにも適切な選挙制度について事前に調べるようにすることが必要である。
私は民主化の専門家ではないのでそれが現実的であるかどうかは分からないが、ときには選挙を実施する方法として「民主派勢力が暫定的な並行政府(この政府は最低でも組織内民主主義を実現しておかなくてはならない)を作ったうえで独裁政権の権力を簒奪し、その政府が選挙を実施する」という手段を使うことも考えられるのかもしれない(※おそらくその方法は大きな社会的混乱を招くため避けられるなら避けたほうが良い)。ただし、それをするには並行政府が社会からの支持と選挙を実践するために必要な実行力の双方を十分に確保することが必要である。
・民主化後の統治について事前に考えておく
民主化の達成後に政治家になろうとする者は、事前に政権を適切に運用するための方法についてよく把握しておかなくてはならない。もし民主化後に権力を握る人々が、民主化の戦略ばかりを学び実際に社会をよくする方法について考えてこなかったのであれば、民主政府による政治は失敗し民衆が民主主義に失望する結果につながることになるだろう。
政府による政治の質を高めるためには、政治家が専門家や能力の高い官僚の支援や協力を受けやすくなるような仕組みを整えておくことも大切である。
・統治システムの引継ぎについて
民主体制に移行する際に、独裁体制下で用いられていた国家の統治のための制度や機関を丸ごと作り替えるようなことをする必要はない。多くの場合、一から全く新たな統治システムを作り出すよりも既存のそれらを修正しつつ引き継いだ方が、政治体制の変更にかかる労力は少なく済むはずである。もし全く新たな統治システムを作らなくてはならないことがあるとすれば、それはその方が既存の制度を修正することよりも容易であったり、民主体制下で必要なシステムが既存の制度では不足していたりするときである。
民主化に貢献した者への評価
民主化運動においてリスクを負って活躍した者やその運動に参加したことにより犠牲となった者への評価は、民主化の過程とその実現後の双方において十分に行うようにしなくてはならない。また、民主化の達成後には独裁政権による弾圧が原因で生じた民主化運動の参加者の損失についてはできる限り補填するように努めなくてはならない。
民主化後
暫定憲法に基づく政権運営&憲法の作成
民主化後正式な憲法を作るまでの間は暫定的な憲法に従って行動すると良いだろう。そして正式な憲法を作る際にはそれを民衆の代表が専門家の助力を得ながら作るという方法を採用することが現実的であると私は考える。場合によっては憲法案の一部の内容について国民にその是非を問いかけることも必要かもしれないが、全ての条項について個別に国民に是非を問うことはやめたほうが良いだろう。何故ならばそのようなことをしようとすると膨大なコストがかかることになるし、憲法についての情報を十分には得ていない者がその作成に直接的に関わり過ぎることは後の国家の運営に大きな支障をきたす恐れがあるからである。
民主主義の定着
もし国民の民主主義の意識が中途半端なままであれば再び独裁政権を作ろうとする者が現れた場合にそれを支持する可能性があるが、大多数の国民が民主主義の重要性を理解していればそれを防ぐことができるだろう。従って、先述の通り民主化後には民主主義への理解と支持を社会に定着させるために十分な努力を行わなくてはならない。その際には若い世代のみに教育でそれを行うだけではならない。
民主的統制の強化
民主化後には軍や警察、その他の政治の実行部隊への民主政府による統制を十分に定着させる必要がある。それらの組織において指導的な立場につく者の中には民主主義に否定的であるにも関わらずその地位にしがみつこうとする者もいるかもしれないが、そのような人も様々な手段を用いて強制的にその地位への固執をあきらめさせなくてはならない。また、民主化に反対する者に対しても同じ人間としての敬意は払うべきだが、そのような民主主義のための統制についてはそれらの人に臆さず強気で行うべきである。
クーデターの阻止
軍部への統制が不十分であれば民主化後であってもクーデターによってそれが覆る恐れがある。民主化後には速やかに軍に対する民主的統制を強化し、非民主的な軍の指導者から権力を奪わなくてはならない。また、新設立された民主政府はクーデターの動きをいち早く察知するための体制を作り、軍による政府の制圧を防止しなくてはならない。
その他
◇独裁者向け
独裁者はもし本当に強い民主化の流れが生じたのであれば、自らがどのように努力してもその政権を守ることはできないことを理解しておいた方が良い。世界には個人の力では変えられない流れというものがあるのである。私は独裁者に対してはその独裁を維持することに固執せずに、権力の座を民主化を推し進める者に譲るか、自ら民主化を推し進めることを推奨する。どちらがいいのかは時と場合によって変わる。
民主化は民衆の側からだけではなく、政府の側からも行うことができる。そして政府の側からも民主化を推し進める場合は比較的犠牲は少なく済むだろう。私は現在独裁的な政治を行っている人々が自ら民主化を推奨してくれることに期待している。もっとも現在政権を握っている人々が民主化を推し進めることを約束した場合もそれらの人々が後にその態度を変える可能性があるので、国民は民主化の圧力を政府に継続的にかけ続ける必要はあるだろう。
◇機が熟すのを待つことについて
私は自身がもし独裁国家に住んでいたのだとしても、機が熟さないうちから民主化のためにリスクを負って活動するようなことはしない。民主化運動を行ってもリスクがあるばかりで民主制が実現する見込みがないような状況では、私はまずは人民の教育水準や生活水準を向上させることに努め、人々の潜在的な民主化欲求を高めることを目指す。私が政府による弾圧を覚悟で明示的に民主化運動に参加することがあるとすれば、それは大規模な民主化運動が既に起きている場合やそれが起きることが確実である場合などである(追記:民主化運動を行わないことが自身により大きな損失をもたらすことが明らかな場合も自身に危険が及ぶことを覚悟してそれに参加する)。大規模な民主化運動への参加は既に述べた通り参加者一人当たりのリスクを小さいことから、自身が有することになるリスクも小さなものとなるため、臆病者である私にも行うことが可能である。もし、以上のような慎重な態度を取った結果いつまでも民主化が達せられず、超科学技術によって残虐で永続不変の独裁体制が実現してしまったのであれば、私は民主化を諦めて自害する。自害が怖くてできない場合はそれすら諦めてただ自身に苦痛が降りかからないことを祈りながら生きることとなるだろう。
私は自己保身のためリスクが大きすぎる運動を行うことはできないが、だからこそそれをする人間に対しては多大なる感謝の念を抱くつもりである。しかし自身が大きすぎるリスクを取ることをしない以上、私がそうしない他者を責めることはない。
◇民主化実現方法補足
・内容の不確実性
私の書いた本の読者に実際に民主化運動に関する計画を立てる者がいるのであれば、その内容が特に民主主義の専門家であるわけでも民主化運動に直接携わったことがあるわけでもない人間によって書かれたことを見落とさないようにするべきである。もし仮に日本が独裁国家であり私が実際に民主化運動を行う立場となったのであれば以上の考えに多くの修正を加えなくてはならないのは間違いないだろう。基本的には民主化の実現方法に関する以上の文章は私の脳内考察に基づくものにすぎず、鵜呑みにするべきものではない。
・参考にした書籍
この民主化実現法の部分を書くにあたって私はアメリカの政治学者ジーン・シャープ(Gene・sharp)氏の著書を大いに参考にさせて頂いた。この本の最後にある参考にした書籍の一覧ではそれが紹介されているので、民主化運動を行う者は余裕があるなら是非ともその内容を自分自身で確認してもらいたい。また、その内容は現在インターネット上で無料で読むことができるようである。
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