この記事は書籍「世界の基礎」の一部です。
民主制は基本的には多数派の力が強い制度であり、このことからその制度を実質的に多数派による専制政治を実現するものであると評価する者も世の中にはいるようだ。しかし今までの人類の歴史においては独裁政権によって特定の人々が弾圧されるといった事態が数多く発生してきた(ヒトラーによるユダヤ人虐殺などは著名な例である)ことから、私は民主制が特別に他の制度より少数派にとって不利なものであるということはないと認識している。また、民主主義では言論の自由が重んじられることからその思想に基づいた制度を採用する国では少数派が言論によって自身の窮状を世間に知らしめることが容易となっており、それ故に民主国家では少数派への弾圧はむしろ避けやすくなっていてもおかしくはないはずである。
しかし、もし仮に民主制が独裁制よりも少数派への弾圧を抑止しやすい制度であったとしても、やはりその制度の下ではより多くの票を投じることができる集団がそうでない集団の権利を無視する可能性がないわけではない。そしてそのような制度の下で人々が他者への思いやりを忘れ自らの利益のみを考えるようになれば、社会全体の効率のために一部の人々にきわめて重大な損失が与えられるような自体が生じることもあり得るだろう。私はこのような事態を防ぐためにも私を含むより多くの人間に自身の利益にならなくとも少数派への弾圧に反対するという意識を持ってもらいたいと考えている。もちろん私のその考えに社会の全ての人々が賛同してくれるということはないだろう。しかし私は実際には人々には十分に他者を大切にする心が備わっているため、大半の人がその態度を積極的にとってくれると信じている。そしてそのように少数派の弾圧に無利益で反対するような人間が社会にある程度の割合で存在するのであれば、民衆の全てがそれに反対しなかったのだとしても一部の人間が目も当てられぬほど悲惨な目にあうことは防げるはずである。
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