世界の基礎+α

世界の平和を実現するための方法を考えます

選挙理論

この記事は書籍「世界の基礎」の一部です。

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※剽窃禁止

選挙基礎

※本著の選挙に関する解説は複雑であるため、とりわけ集計法については選挙の専門家となるわけでもないならば無理して理解しようとせず読み飛ばしたほうが良い。

※私の選挙に関する解説では私自身の感性に基づき選挙制度が分類されたり用語が作成されたりしているため、その内部の選挙制度の体系や用語は政治学界とは違ったものとなっている部分がある。従って、以下の文章はそこで使われる体系や用語が専門用語と一致しない可能性があることを留意しながら読まなくてはならない。


選挙とは

選挙とは特定の地位や役職につく者を投票によって決めることである。また、投票とは人々が、何らかの候補の内自身がより強く支持する者(※場合によっては逆に支持しない者)の名を票(何かを記す小さな紙。もしくはその代替品)で示し、その票を票の集計を行う存在に提出することである。基本的には票による支持がより多かった候補者が当選者となり、選挙対象の地位や役職に就くこととなる。

選挙の流れは以下のとおりである。

(0:選挙の事前準備
選挙対象の決定(議会の議員や大統領など)
選挙における立候補権保有者と投票権保有者の決定
選挙手続きの決定
選挙を管理する組織の設立)
1:立候補権及び立候補の意思を有する者が、事前に定められた手続きに従い立候補する(選挙対象である地位に就く者の候補となる)。
2:投票権及び投票の意思を有する者が、事前に定められた手続きに従い投票する(票を獲得し、票に候補者の名前を記し、票を選挙管理組織に提出する)。
3:票を集計し、その結果に基づき当選者を決定する

時と場合によっては立候補や投票は義務となることがある。


選挙と民意の反映の関係

「民衆が政治を決められる状態」とは民衆が政府に「自身が実施すべきと考える政策の実施」と「自身が実施すべきでないと考える政策の不実施」を強制できる状態のことを言う。そして、選挙とはその状態を実現するための手段である。

選挙の正しい実施が政治家自身の都合で妨げられない状態を実現すると、政治権力を握る政治家集団内の思想構成は既存政治家集団の意思にかかわらず民衆によって変更させられるようになる。もしより多くの民衆から支持された候補を当選者とする形式の選挙によって政治家を選ぶのであれば、民衆は選挙の際に「実施すべき政策を実施する候補」に票を投じると同時に「実施すべきでない政策を実施する候補」に票を投じないようにすることで、政府に自らの望みや考えと一致する政策の実施を強いることができる。正確に言えば間接民主制においては完全に民衆の意思と一致する政治が行われることはなくなるが、それは既に選挙制度構築時の目標の部分で触れたように実利的観点から容認される。


・政治家による選挙妨害への対策
政治家が自らの都合で選挙を実施しなかったり選挙制度を改変したりすることを防ぐためには、社会に民主主義の思想を定着させることが必要である。そうすれば、民主主義を支持する民衆や官僚、その他の公務員により政治家の不正は防がれるし、そもそも政治家自身の大半が選挙の実施を自ら支持するようになるため、一部の政治家が選挙を停止しようとしたところで他の政治家によってそれを達することができなくなるからである。

・選挙間の民意反映についての考察
選挙を定期的に実施するだけでは、選挙と選挙の間の期間の民衆の政治的決定権が保証されないという問題が残ることになる。そのことは政治の質を高く保つという観点からやむを得ないということもできるが、もしそれでも何らかの対策をするのであれば次の手段が考えられるのではないかと私は思う。

議会の議員の3分の1の賛同(※1)あるいは民衆によるある程度の規模の署名があった場合に、国民投票で議会の解散の是非を決められるようにし、国民投票で全国民の3分の2程度の賛同があった場合には議会を解散し再選挙が行われるようにする。

しかしやはり私は以上のやり方は議会解散の国民投票がむやみに繰り返された場合に大きな費用が掛かり、政治の不安定化を招く恐れがあるため、現時点では支持しない。選挙間の政治家への統制手段としてみとめられるのは、せいぜい国民による政治家への提言を促進する仕組みの導入が限度だろう。


※1:この条件が厳しすぎると結局は民衆が政治家の意思を自らの決定によって強制的に覆すことができないことになる。ただしその条件を緩くする場合各議員は安易に国民投票を行うことに賛同しないようにしなくてはならない。最低でも国民投票による議会の強制解散を行う場合は現政権の不支持率が2/3を超える必要があるだろう。また、民衆はもしその権限を濫用する議員や政党が現れた場合次の選挙でそれらへの投票を控えるようにする必要がある。

選挙制度構築時の目標

選挙制度を構築する際には以下のことを目指すべきである。


1:ゲーム化阻止
投票の際には、投票者にとっての最善の選択肢が、投票者にとって最も好ましい候補に投票することと極力一致するようにしなくてはならない。もし人々が自身がより好む候補ではなくそうではない候補に戦略的に投票することでより良い結果を導くことができるような選挙制度が用いられるのであれば、選挙は戦略を考える能力が高い者(※多くの人員と高い構成員への統制力を兼ね備えた組織は、戦略的な投票を行いやすい)がそうでないものよりも大きな権限を持つものとなり、選挙の平等性は保たれなくなるだろう。

2:権限の平等
権限の平等とは、各有権者に認められる制度上の権限(選挙制度を実際に効力のある形で規定する文章中で示される各有権者の権限)が、有権者間で同じであることを意味する。私は権限の平等は次に紹介する結果の平等よりも実現が容易であり、選挙が平等なものであると主張するためにも積極的に達成した方が良いものであると考える。

3:結果の平等
結果の平等とは、投票者全体によって選出された代表者集団内において、各投票者の持つ代表の数あるいは権限の大きさに差がないことを意味する。例えば投票者の内の6割を占める集団Aは、代表者の6割を占める代表者集団aを選出し、投票者内残りの4割を占める集団Bが、代表者の残りの4割を占める代表者集団bを選出した場合、【aの代表者数/Aの投票者数】と【bの代表者数/Bの投票者数】の値は一致し、それぞれの投票者は同程度の代表者を持ったこととなる。

4:民意の反映度の向上
人々が実施を求める政策は複数あり、それらには優先順位が存在する。選挙の際には、人々の要求の内より優先順位の低いものについても政治に反映させられるようにすることが望ましい。また、特に理由がなければ民衆の代表者は民衆自身が直接選ぶべきである。

5:上記四つの条件の達成度の実利的観点からの制限
政治制度は人々の幸福をより多くし、人々の不幸をより減らすように構築しなくてはならない。以上の四つの条件を厳密に満たそうとすることでそれができなくなるのであれば、それらの条件の達成をいくらか妥協したほうが良いこともある。例えば民意の反映度を向上させることはやりすぎると衆愚政治に繋がる恐れがある。


補則:以上以外にも投票及び立候補が自由に行えることや、選挙が定期的に十分に高い頻度で行われることが大切であるが、そのことについては「民主主義において満たすべき諸条件」の節で解説する。

選挙構造:物質的構造

選挙の物質的な構成要素の例としては、候補者、投票者、票、選挙の管理者が挙げられる。

候補者の属性

候補者の選挙に関わる主な属性には、「能力」、「思想」があり、選挙制度次第では所属政党などの他の情報も重要となってくる。能力には知性、教養、求心力、対話力、情報発信力、資産、協力者の数等の種類があり、候補者が持つ能力の程度は候補者の実績や思想、その他経歴を示す情報などから推測される。候補者の思想は、「その候補者の根底にある価値観あるいは性格」、「その候補者が支持する政策」などによって構成される。候補者の能力や思想は投票者が投票先を決める際の判断材料となる。また、候補者の能力の内「情報発信力」、「資産」、「協力者の数」は、投票者の判断材料となる以外の形で選挙結果に大きな影響を与えうる。

投票者の属性

投票者の選挙に関わる主な属性には、「支持政策(投票者が支持する政策)」や「支持候補者特性(投票者が好む候補者の性質)」がある。


候補者及び投票者の形態

候補者及び投票者は個人ではなく集団とすることも考えられる。ただし、投票者や候補者が集団である場合、その集団内部での権力が少数のものに集中していると独裁のリスクが高まる点に注意が必要である(比例代表制を採用する場合、議員の当選後の離党を容認するなどして議員が党の幹部の意向に逆らう余地を残しておくことが大切である)。

・候補者の形態と性質
現在の民主制国家では、選挙における候補者が集団である場合、その集団は議会で得票数に応じた大きさの代表者を持つことになる。また、個人が候補者となる場合は当選者には得票数に関わらず同じ大きさの権限が付与されるが、得票数に応じて権限や議席を保有させることは、独裁を避けるためにも原則として認めるべきではない。

・投票者の形態と性質
民主国家の投票者は基本的には個人であり、そのような国の選挙おいて集団に投票権を付与することはその集団内の権力者による独裁を招く恐れがあるばかりで特にメリットないだろう

候補者及び投票者となるための条件

選挙においては立候補や投票を行おうとする民衆に対していくつかの条件が課せられ、それを達成できない者には選挙権(立候補権、投票権)が認められないことがある。その条件の例としては年齢、納税額、犯罪歴に関するものがあげられる。

・年齢
年齢の低い世代には、政治に関する知識の不足から選挙権が付与されないことがある。むろん各個人ごとに見れば年齢が低くとも高い能力を持つ者はいるし、逆に年齢が高くとも低い能力しか持たない者は存在する。しかし年齢の低い世代の選挙権を認めた場合に、より多くの義務教育過程の知識すら持ち合わせていない者が政治的権限を持つことになるのは事実であり、その世代の内能力の高いものに限定して選挙権を付与することも各個人間の人生全体における政治的権限に差を生むことから容認しがたいため、年齢がある水準を下回る者の選挙権を一律で制限することは正当化することができると現時点の私は考えている。ただし、年齢によって選挙権を制限することは、特定の世代が独善的な政治を行うことに繋がる恐れがあるため、過度な年齢に基づく選挙権の制限を行うことは避けるように最新の注意を払わなくてはならない。

補足:時には子どもの方が全体的に見て大人よりも道徳的に正しい主張をしているように思われる場合もあるかもしれないが、そのことで義務教育を終えていない者にたいして選挙権を付与することを正当化することには慎重になったほうが良い。何故ならばその主張が現実の他の問題との折り合いがつけられたものであるとは限らないからである。


・納税額(時間不足故、誠実な説明の放棄)
日本ではかつて納税額が一定の水準を超える者に限って選挙権を付与していた。しかしこの条件は原則として採用するべきではない。何故ならば明らかに不道徳であるからである。少なくとも私は支持しないし、他の多くにも同じように不支持であることを求める。


・犯罪歴
犯罪歴によって選挙権を制限することは冤罪によって選挙権が剥奪されるリスクや、政権が政敵を意図的に冤罪によって陥れたりするリスクを伴うためできるだけ避けるようにするべきである。例えば、選挙の際には基本的に犯罪歴のあるものの立候補は法律ではじくのではなく、国民自身にその是非を判断させた方がよいだろう。実刑期間中の者や選挙で不正を働いた者の立候補権をやむを得ず停止する場合には、立候補を不可能とする期間を限定的なものにしたり、司法の公平性の確保により厳密になったりすることによって、不当な立候補権の制限が生じるリスクを抑えるべきである。


選挙制度構築の際には、上記のいずれの条件についても民衆に対して課すことを極力さけるようにするべきであり、やむを得ず何らかの条件を民衆に課す場合にはその達成の難易度をできる限り抑えるようにしなくてはならない。もしそのような努力を怠れば次に制限されるの私や読者自身の権利となるだろう。どのような人間にも何らかの側面で自身より上位に位置するような人間は存在するのであり、もし能力や資産の程度で選挙権を付与するかしないかを決めるのであれば、人々がより上位の存在によって選挙権が剥奪されることを正当化する可能性が高まることとなる。また、選挙権の"不当な"制限は、選挙権を制限される側の人々による反乱を残虐でない範囲で正当化しうるという点には注意が必要である。


・票の種類
票は基本的に紙であるが、今後インターネット投票が採用されることがあるのであればスマホやパソコンがその代わりとなることもありうるだろう(しかし私は現時点でインターネット投票は不正のリスクが大きく、少なくとも日本においては技術的にも信頼できないように思われるので、その導入には反対している)。票は郵送で送られることもあれば投票所で獲得できることもある。

・票の内容
票に記される主な情報は投票者が支持する候補者の名前である。候補者名は選挙制度次第では複数記入されることがあり、更にはそれらに順位が付けられることもある。また、投票者が票で意思表示をする際の方法としては、自筆以外に、既に印刷あるいは表示されている候補者名にマークを付けるやり方がある。マーク式は誤記や内容の判定が困難な票の発生を防ぐという点でメリットがあるが、候補者が多い場合には投票用紙が大きくなるというデメリットが生じることがある。

選挙の管理者

この項目は後程選挙実践の部分に追記する

 

選挙構造:制度的構造

集計方法

◇用語

以下に集計方法を解説するうえで重要な語の定義をまとめておく

得票数:各候補が獲得した票の数のことであり、その数は各候補者ごとにその候補の名が記された票の数をカウントすることで求めることができる。

得票率:各候補の得票数の全有効投票数中における割合。[各候補の得票数/全有効投票数]によって算出される。

総有効投票数:投票者によって投票された票の内無効でないもの

議席占有率:各候補に分配された議席数の全議席数中における割合。[各候補の獲得議席数/全議席数]によって算出される。

定数:選挙区(※選挙は大きな地域を複数の地域にわけ、そのそれぞれで行われることがあるが、その時の分けられてできた地域が選挙区である)ごとに定められるその選挙区で選出する予定の議員の数


集計とは

集計とは数値を集めそれらの数値を合計することを意味するが、ここでは選挙において投票された票をもとに当選者を決定する一連の流れのことを言うものとする。私は集計方法には、得票数順当選制と比例分配制の二つがあると考える。得票数順当選制とは、得票数がより多い候補から順に所定の人数を当選者とし、各当選者には同じ大きさの権限や議席を付与する方法である。そして、比例分配制とは、各候補者に対して得票数に応じた大きさの権限や議席を付与する方法であり、その方法の下では当選者間で獲得する政治的影響力の大きさに差が生じることが容認される。

得票数順当選制

得票数順当選制としてもっとも単純なものは、複数の候補の中で最も多くの票を獲得した者を当選者とする方法である(この方法は日本では小選挙区制と言われることが多い。ただし実際には小選挙区制は一つの選挙区で一人を選出する方法を言うのであって、その条件を満たす限り集計方法が比例分配制のものと同じであっても小選挙区制となる)。また、その方法を拡大した方法として、複数の候補の中からより得票数の多い者から順に複数名を当選させるやり方も考えられる。

しかし以上の方法にはそれぞれ重大な問題点が存在している。例えば最も多くの票を獲得した一人を当選者とする方法を採用した場合、もしある選挙区で候補者Aが得票率30%となりその他の候補者の全てがそれを下回る投票率となると、Aのみが当選者となり残りの70%の票は選挙結果に影響を与えないことになる。これは言い換えるとその地域の投票権を行使した住民の内わずか30%しか代表者を持たないということであり、いかに選挙権の大きさが平等であるとしても、多くの投票者が政治的不利益を被り政治的不満をため込むため好ましい方法であるとは言えないだろう。

そして、当選者を複数人とする場合には、二位以下の得票数の候補も当選することで代表者を持つ投票者の割合は増加し、先述の問題はいくらか緩和されることになるものの、それでもいくつかの大きな問題が残っている点には注意が必要である。

第一の問題は依然として落選者に投じられた票が無駄になることである。そのような性質が残っている場合、票が分散しいずれの候補も大きな得票率を持たない状況になると、当選者が複数名であっても全ての票の内当選者に投じられた票の割合は小さくなり、住民の内わずかな割合しか代表を持てないことになる。

第二の問題は、過度な数の票を獲得した候補がいる場合に、その過剰な分の票が無駄になることである。これはどういうことかというと、例えば候補者A~Eの得票率が、A80%、B10%、C5%、D3%、E2%であり、当選者が二名である場合、当選者はAとBとなるが、Aの得票率うちその他の候補者の得票率の計である20%(※実際はもっと少なくとも当選は確実である)+1を超える部分の票についてはなかったとしてもAは確実に当選できていたため無駄になっているということである。そして、その場合無駄になった分の票の持ち主は落選したC~Eの中にBより望ましい候補がいるのであれば、それに票を投じることでより良い結果をもたらすことができた可能性があり、単に戦略のミスにより自らの票の価値を減らしたことになる。

第三の問題は、これは当選者が一人の場合にも言えることであるが、候補者過多が代表者過少を招く可能性がある(正確に言うとある思想を実現しようとする候補者の数が過剰となった場合に、その思想を支持する代表者の全代表者中における割合が不当に小さくなる恐れがある)ことである。例えば、政策Aの支持率が80%、政策非Aの支持率が20%であるとき、選出される議員の数が5名であるのなら政策Aを支持する代表者が4人、政策非Aを支持する代表者が1人が望ましいといえる。しかしもし、政策Aの候補者が80人、政策Bの候補者が4人であり、AとBそれぞれの候補者内部で均等に票が分散した場合、政策Aの候補者の得票率はそれぞれ1%、政策Bの候補者の得票率はそれぞれ5%となるため、代表者の数は政策Aが1、政策Bが4となる。そしてそうなれば当然その代表者の比率は実際の民衆の意思とはかけはなれたものであることになる。実際には候補者を擁立する存在である政党も愚かではないのでそれほど実態とかけ離れた代表者の割合となることはないだろうが、それでもこの方法には候補者乱立が代表者過少を招く恐れがあるといえる。従って、単に得票数が上位の候補から複数名当選させる方法は選挙のゲーム化を阻止するという観点から望ましくない。


以上のように単により多くの票を得た人から順に一人あるいは複数名を議員とするだけの得票数順当選制では、多くの問題が発生することになる。しかし、それらの問題を解決する方法も考えられており、それが以降で解説する「移譲式」と呼ばれる方法である。その方法を使えば、落選者の票や各候補者が過剰に獲得した分の票が無駄になるのを避けることができ、候補者が乱立した場合にも、同系統の思想を持つ多数の候補に投じられた票が移譲されることによって最終的に少数の候補に集約し、各思想の代表者はそれらの思想の支持率に見合った人数となる(ただし票に一部の候補者の名前しか記述されない場合はそうならないこともある)


得票数順当選制:第一移譲式(落選者の票のみの移譲)

落選者の票が無駄となることを避けるための方法としては、投票者が投票用紙に自身がより支持する候補から順に全ての候補の名前を記し(※1)、立候補した者の数が定数を上回る場合に、集計者がまず支持順位一位の名前によって票を分類及びカウントし、次にその結果の得票数が最下位となった候補(※落選が確定した候補)の票を他の候補に移譲し、その後残りの候補の数が定数と同数になるまで前回の移譲後に最下位となった候補の票の移譲を繰り返すという方法がある。この時移譲先の決め方は、残存する他の候補の内もっとも支持順位が高い候補である。例えば候補者がA~Eの五人かつ定数が3の選挙において、候補者E、候補者D、候補者C、候補者B、候補者Aの順に名前が書かれた票は、まずEに振り分けられ、Eが最初の計上で最も少ない得票数となった場合には、次に支持する候補であるDに票が移譲される。

なお、実際の選挙制度では、投票用紙のサイズや投票者の票の記入時間が過度になることを防ぐため票に記入する候補の数を候補者の総数より少なくすることがふつうである。ただし、その場合票の移譲過程で移譲することができない票が生じ、その票が代表者を持たないことになる可能性がある点には注意しなくてはならない(※2)。また、候補者数に対して、記述できる候補者名の数が少なければ少ないほど、移譲法の採用による戦略性緩和の効果は小さくなる(※3)。

ちなみに、このように票を移譲する方法では、最後まで移譲されなかった票の投票者は自らが最も支持する候補に票を投じたことになり、移譲された票の投票者は移譲された回数が多いほど妥協した候補に票を投じたことになる。

※1:既に投票用紙に記された候補者名の一覧に支持順位をつけていく記入法を採用してもよい。特に候補者の数が多いときに投票者に全ての候補者の支持順位を示させようとする場合はそちらの方が現実的である。

※2:投票者に記入させる候補者の名前の数の増減によって、投票者が各候補の支持順位を変更しないことが前提となるが、実際には投票者に候補者の名前の全てを書かせなくても全てを書かせた場合と同じ結果を導くことができる。例えば、投票者に支持順位【候補者数-定数】位までの候補者名のみを票に記させる場合でも、最も多い回数移譲されることになる票が、最終的にいずれかの当選者に票を移譲されることになるため、特に結果が変わることはない。また、全ての票に代表者を持たせることにこだわらないのであれば、支持順位【候補者数-定数-1】位までの記述でも同様の結果が導くことができる。しかし、票で支持順位を示す候補の数がそれより小さくなる場合は、全ての候補者の名と支持順位を記す場合と結果が替わることがある。

※3:このような制度の下では、各政党は移譲のない選挙ほどではないにしろ依然として過度な数の候補者を同じ選挙区に擁立しないように配慮することが必要である。


得票数順当選制:第二移譲式(落選者の票及び過剰な票の移譲)

得票数順当選制:移譲式2(落選者の票及び過剰な票の移譲)
落選者の票のみではなく各候補者が過剰に獲得した分の票についても、他の候補に移譲する方法の手順はおおむね次のとおりである

1.各候補者の得票の内どれが過剰なものであるのかを特定する。
2.過剰な票を持つ候補者の過剰分の票を、他の候補者に移譲する(この時各票はその票に名を書かれた候補者のうちもっとも支持順位の高い者に移譲されるが、それにより移譲先にも過剰票が生じた場合は、その票についても更に同様に他の候補に移譲する)
3.票を持つ候補の数が最終的に選出される予定の議員の数と同数になるまで、最下位の候補の票を他の候補に移譲し続ける(移譲式1と同じ手順)。

過剰分の票の数を特定する方法の一つとしては、ヘア基数と呼ばれる総有効投票数を選出する議員の数(最終的な当選者の数。定数とも呼ばれる)で除算した値を使うものが考えられる。その値を超える数の票を得た候補がいる場合、その超過分の票が過剰票であると判断できる。しかし、ここで問題になるのは、その方法だと過剰な票の数を明らかにすることは出来ても、どの票が過剰なものであるのかを判断することができないことである。もし、過剰な票を選ぶ際の公正さが保たれないのであれば、何者かが支持順位二位以下の名前によって移譲する票を判断することで、特定の候補に優先して票が移譲される恐れがある。

その問題への対処法としては、まず最初に、トーマス・ヘアによってランダムに移譲する票を決定するという方法が考案された。しかしその方法は結果が偶然によって左右されるという点が批判されることとなった。そこで後に考えられたのが、グレゴリーによって考えられたグレゴリ法やそれに修正が加えられることでできた手法である。また、それ以外にもミーク法やそれを改善案として提唱されたウォーレン法(本著では解説しない)がある。以降ではそれらの手法の簡易な解説を行う。ただし、私は選挙制度の専門家ではないため、それらについて誤解のある解説を行う可能性があるという点には注意しなくてはならない。

余談:ドループ基数について
余分な票を判定する際にはヘア基数以外の基準を使う方法もある。ヘア基数以外の基数としてはドループ基数が存在する。ドループ基数は【総有効投票数/(定数+1)】によって算出される。現実の世界ではヘア基数よりもドループ基数の方が使われることが多い。ドループ基数を用いる場合は、ヘア基数と違いその基数+1以上の票を超過票として扱う(より正確に言えば、ドループ基数が整数であるときにはドループ基数+1を当選確定基準としその数を上回る部分の票を超過票とする。ドループ基数が小数である場合には単にドループ基数を上回る票を超過票としてよい)。

・ドループ基数の性質
ドループ基数は候補者が自身の当選を確実にするために上回る必要のある獲得票数の値である。ドループ基数を超える数の票を得た候補者は、得票数順当選制においては当選が確実となる(ただし、集計の過程で各候補が保有する票の計が投票直後の全有効投票数と同一であり続けるものとする)。そのようになる理由は以下ととおりである。

ドループ基数=総有効投票数/(定数+1)から総有効投票数=ドループ基数×(定数+1)である。ここで、aを正の数(a<総有効投票数)とすると、ある候補がドループ基数を上回る票を得たとき残りの候補が保有する票の総数は、総有効投票数-(ドループ基数+a)=ドループ基数×定数-aとなる。また、ドループ基数×定数-a<(ドループ基数+a)×定数-a<(ドループ基数+a)×定数である。以上のことから、残りの候補のうちの定数人以上がドループ基数+a以上の数【(ドループ基数+a)×定数】の票を得ることは、当初のそれらの候補が保有できる票数の上限【ドループ基数×定数-a】を上回ることになりありえない。したがって、ある候補がドループ基数+aの票を得たとき、それ以上の数の票を得る候補は他に定数-1人までしか発生しないため、その候補は当選が確実であるということができる。

・ドループ基数に関する個人的な見解
私は移譲法について考える際には基本的にヘア基数を用いることを前提としている。何故ならば、ドループ基数によって超過票を判定する場合、ほとんど必然的に死票が発生することになるからである(ドループ基数×定数<総有効投票数)。また、検証はしていないが、ドループ基数を用いる場合には選挙結果が多数派に有利になると主張する専門家もいるようだ。しかしあえて多数派に有利な状況を作らなくてはならない場合には、あえてドループ基数を用いることも必要なのかもしれない。

 

○グレゴリ法とその発展形
冒頭で触れた通り私はグレゴリ法とその発展形の内容について誤解をしている恐れがあるのだが、その事実に臆せずそれらの解説を行うのであれば、それらの手法の実行方法は以下のとおりである。

・重み付き包括グレゴリ法(Weighted Inclusive Gregory Method)
私が当初票の分配方法として考えていたのは、恐らく重み付き包括グレゴリ法に該当する方法である。重み付きグレゴリ法では、まず全ての票をその支持順位一位の候補者名に基づき各候補者に振り分ける(以降、これやこれに相当する分配段階を第一分配と称する)。そして、それにより基数に到達する候補がいた場合、その候補の超過票(基数を上回る部分の票)を他の候補者に移譲する(以降、これやこれに相当する移譲段階を第一超過票移譲と称する)。その際に、移譲元の候補者の票を次の移譲先ごとに分類し、それによってできた各グループから各グループの票の総数に【移譲元の超過票数/移譲元の総得票数(この除算によって求められる値は移譲価値と呼ばれるようだ)】を乗算した数の票を各グループにとっての次善の候補に移譲する。そして、次にその移譲によって超過票を得た候補者の超過票を移譲する(これは第二超票移譲と称する。この段階は第一超過票移譲が全て完了してから実行する)が、その際にはその候補が最初から保有していた票とその候補が他候補からの移譲によって獲得した票のそれぞれを、次の移譲先ごとに分類し、それによってできた各グループの票数に新たに算出される【移譲元の超過票数/移譲元の総得票数】を乗算することによって求められる数の票を、それらのグループから移譲する。以上の流れは得票数が基数に達する候補者がいなくなるまで繰り返す。そして、その後得票数が最小の候補の票を他の候補に移譲することをそれによって超過票が発生した場合にはその超過票の移譲を優先しつつ繰り返すことで、すべての当選者を確定させる。


・包括グレゴリ法(Unweighted Inclusive Gregory Method)
包括グレゴリ法では、重み付き包括グレゴリ法において他候補者からの移譲によって超過票を得た候補者の超過票の移譲を行う際に、まずその候補の移譲によって獲得した票グループの票数を、そのグループが直前に乗算された「移譲価値」によって除算することでもとに戻すことを選択する。そして、その後に新たに移譲元となる候補の移譲価値を算出し、その移譲価値を新たな移譲元の次の移譲先ごとに分けられた各票グループに乗算することで、それらのグループから移譲される票の数を決定する。私は当初、包括グレゴリ法では、新たな移譲元の他候補からの移譲によって獲得した票の数をそれに直前に乗算された移譲価値で除算することで元の数に戻した後に、それによって生じる票の増加を、新たな移譲元の移譲価値除算後の各票グループに【本来の超過票数/移譲価値除算後の新移譲元の総票数】を乗算し移譲する票の数を適正値に戻すことで埋め合わせるものと捉えていた。しかし、この点が私がとりわけよくわからなかった点であり誤解があるかもしれないが、どうやら包括グレゴリ法ではそのようなことはせずに最終的に分配される票の総数は当初の総有効投票数より増えることになるらしい。


・オリジナルのグレゴリ法
重み付きグレゴリ法で他候補の超過票の移譲によって超過票を得た候補者の票を移譲する際に、移譲によって獲得した票のみを移譲対象とすることを選択するのがオリジナルのグレゴリ法である。ただし移譲された票の中でも直前に移譲された票のみを移譲対象とする。その直前に移譲された票というのは、文字通り直前に移譲された票のことであると思われる。しかし、私の考察によると、「直前」ではなく「直前の段階」に移譲された票を移譲対象とすることも可能であり、そうすることによって移譲の順番を変えることによる結果の変動を抑えることができる。例えば、第一分配で複数名の当選確定者が発生しそれらの超過票を他の候補に移譲することで発生した当選確定者の超過票を移譲するとき、その人の保有する票にはその人の初期票と第一分配の当選確定者複数名から移譲された票が含まれている可能性があるが、その場合に当選確定者から移譲された票の一部(直前に移譲された票)ではなく全て(第一超過票移譲によって獲得した全ての票)を移譲対象とすることが直前の段階に移譲された票の移譲に該当する。オリジナルのグレゴリ法において、移譲する票の数は、直前の移譲によって獲得した票をその次の投票先によって分類し、それによってできたグループに対して【移譲元の候補者の超過票数/直前の移譲によって獲得した票の総数】を乗算することによって求められる。オリジナルのグレゴリ法が、分配の各段階の途中で当選確定者が発生した場合に、その段階の後の部分でその当選確定者に票を移譲しないものである場合、直前の移譲によって獲得した票の総数は超過票を上回らない。直前の段階に移譲された票の全てを移譲対象とするのであれば、それらを次の移譲先ごとに分類し、それによって生じたグループのそれぞれに対して、【超過票数/直前の段階に移譲された票の総数】を乗算することによって移譲する票の数とその移譲先を定めることができる。


オリジナルのグレゴリ法は、重み付き包括グレゴリ法や包括グレゴリ法と比較して集計作業が簡単に実施できる手法である。地方自治体で移譲法を採用する際に、人手や資金の不足が問題となるのであれば、この手法を採用する余地がある。それでもかつての日本で使用されていた票の移譲のない中選挙区制や今の日本で使用されている小選挙区制よりはずっと公平に議員の選出を行うことができる。

 


○グレゴリ法の分析
◇票の構成例
以下は私が移譲法の性質を確認する際に使用した票の構成の例である。

総有効票数300
・Aの初期票(支持順位一位の候補者名に基づく分配で各候補に配られた票)180票
Aの初期票は移譲先が「B→C→D」である票60票と「B→D→C」である票120票に分けられる。
つまり、Aの初期票はすべて次の移譲先がBであり、その次にCを支持する票とDを支持する票の比率が1:2となっている。

・Bの初期票90票
Bの初期票は移譲先が「B→C→D」である票60票と「B→D→C」である票30票に分けられる。

・Cの初期票15票
いずれも移譲先がD→B→A

・Dの初期票15票
いずれも移譲先がC→A→B

以上の票の構成例においては、定数が3である場合には、ABDが当選者となることが望ましい。何故ならば、Aが当選するのはその初期票数から明らかであり、Bが当選するのはその初期票数とAからの移譲票を考慮するとやはり明らかであり、CとDでは初期票が同じであるためAとBの意向によってどちらが当選するかが決められることになるがAとBではAの方が獲得票数が大きくAはCよりDを支持することからDが当選するべきだからである(しかし重み付き包括グレゴリ法ではCが当選する。ただしAの投票者のうちのCよりもDを支持する勢力が戦略的にDを支持順位一位に設定した票を投じた場合、Dが当選する。Aの初期投票者とBの初期投票者の双方が戦略的にC及びDに投票した場合、CとDの双方が当選する代わりにBが当選しない可能性が生じることになる)。


◇グレゴリ法の限界
移譲票(他候補者から移譲された票)を有する候補の超過票の移譲の際には、移譲する票を移譲票もしくは初期票(支持順位一位の候補者名に基づく分配で各候補に配られた票)のいずれかあるいは両方から選ぶことができる。

このとき、移譲票のみから票の移譲を行うことにすると、初期票は他の候補者の選定に影響力を行使できなくなるため、他候補からの移譲によって超過票を有することになる候補者の初期投票者(初期票の投票者)は、投票時点で戦略的に移譲票の移譲元である候補者に票を投じていた方がよいことになる。例えば、先ほどの票の構成例では、Bの初期票の投票者はAの順位を繰り上げて自身の票をAの初期票としておいた方が、自身の考えを選挙結果により反映することができる(ただしその構成例では当選者は変わらない。変わるのはCとDの集計過程の得票数である)。

また、初期票のみから票の移譲を行うことにすると(重み付き包括グレゴリ法は票の移譲のたびに移譲価値が乗算されるため、移譲票の効力は初期票よりも小さい。従って、それは初期票のみから票を移譲する手法に近い側面がある)、移譲票は他の候補者の選定に影響力を行使できなくなるため、超過票を移譲することで新たな超過票保有者を生み出す候補者の初期投票者は、投票時点で戦略的に移譲先の候補者に票を投じておいた方がよいことになる。例えば、先ほどの票の構成例では、Aの初期投票者のうちの80票の投票者は、Bの順位を一位にすることでBの初期投票者となった方が、自身の考えを選挙結果により反映することができる。

以上のことからはオリジナルのグレゴリ法や重み付き包括グレゴリ法は戦略投票によって結果が左右される側面があることがわかる。それに対して、包括グレゴリ法は移譲票と初期票の双方から対等に票の移譲を行うため以上のような戦略投票は意味をなさない。しかし、それでも、これは他の二つのグレゴリ法にもある問題であるが、その手法を採用した場合には、超過票を保有する候補者や票の移譲によって基数を上回る数の票を得ることが確実な候補者の初期投票者は、戦略的に他の当選が不確実な候補者に票を投じておいた方が良いという状況が生じることになる。従って、オリジナルのグレゴリ法、重み付き包括グレゴリ法、包括グレゴリ法のいずれを使っても戦略投票による結果の操作からは逃れられない。

 

○ミーク法

◇ミーク法の考え方
ミーク法では、超過票を保有する候補の超過票を他の候補に移譲する。その際、既に票の移譲を終えた基数以上の票を有する候補にも票を移譲し、その結果その候補が再び超過票を得た場合は、再びその候補の票を他の候補に移譲する。以上の流れは、超過票を保有する候補の超過票の数が最小となるまで繰り返す。

超過票を保有する候補者の超過票を移譲する際には、その人から票を移譲する時点でのその人の得票数(暫定得票数)から基数と同数の票を減算した数の票を移譲する。そのことは票の移譲元の候補者が、自身の暫定得票のうち【基数/暫定得票数】の割合すなわち基数分の票を保持し、支持順位が次の候補者に【1-基数/暫定得票数】の割合すなわち超過分の票を移譲することを意味する。そして、このときの【基数/暫定得票数】が保有率に相当する値である(その値は初期の保有率ということができる。ただし、保有率は後の手順によって別の値に変更させられるため、その式が導く値が保有率であるとは限らない)。

票の移譲を受けた候補者は、票の移譲後に自身の初期票と移譲票の計が基数を上回る場合、その上回る部分の票を他の候補に移譲する。その際には、その人の【基数/暫定得票数(移譲票を含めた得票数)】を算出し、その人の初期票と移譲票のうちその計算によって求められる割合の票をその人が保持し、残りの割合【1-基数/暫定得票数】の票を他の候補に移譲する。また、そのとき次の移譲先の候補が保有するそれらの移譲票の数は、それらの移譲票の初期投票先での票数に、それらの移譲票が次の移譲先の候補に至るまでに乗算された全ての【1-基数/暫定得票数】の値を乗算した値に、更にその候補の【基数/暫定得票数】を乗算した値であると言える。例えば、A、B、Cの三名の候補者が存在し、A→B→Cの順に候補者を支持する票がz票投じられたとき、それらの候補者の【基数/暫定得票数】がそれぞれa、b、cの順に定まったのであれば(ただし、理由は後に詳しく触れるが暫定得票数が基数以下であるときは保有する票の割合を1に設定する)、それらの票はAにz*a票、Bに(z-z*a)*bすなわちz*(1-a)b票、Cに(z-z*a-(z-z*a)*b)*cすなわちz*(1-a)(1-b)c票分配されることになる。

そして、票の移譲を受けた候補者が既に他の候補者に票を移譲した候補者である場合、その人の超過票を再び他の候補に移譲しなくてはならないが、ミーク法ではそのときその人が保有する基数分の票とその人が新たに移譲された票を暫定得票としたうえで再度【基数/暫定得票数】算出してその割合の票を保持するのではない。ミーク法のもとでは、既に他の候補に票の移譲を行った候補に票が移譲された場合、その候補から初期票や移譲票の移譲を行う際の票を保持する割合をその候補が初期票を移譲する際に用いた【基数/暫定得票数】より小さな、移譲票数と初期票数のそれぞれに乗算してその結果を合計すると基数と同数になるような値(この値が保有率)に設定したうえで、再度集計を行いなおすのである。そうすることで、最終的にその候補が保有する票の数は基数と同じ値になる。その場合当然他の候補に移譲される票の数は増加するが、その増加によって超過票を得た候補が出た場合は、その候補の保有率を低下させることで、その候補の最終的な得票数を基数と同数にする。その保有率の低下によって、その候補から移譲される票が増加し、再び既により小さな保有率を設定済みである候補が超過票を有するようになった場合は、更にその候補の保有率を引き下げる。そのような作業を繰り返すことで基数以上の票を有する候補にも票を移譲しつつ、それらの候補の超過票数を最小化するのがミーク法である。

以上の超過票の移譲過程を終了したとき、基数に到達する得票を有する候補が定数に満たない場合、票の移譲後に最も得票が少ない候補者の候補者を落選確定者として、再度以上の流れを実行する。落選確定者は全ての票を次善の候補に移譲し、他候補からの票の移譲を受け付けない。


◇ミーク法の計算方法
先述の考え方を実際の集計で採用する場合には、以下のような手順で集計を行えばよい。

・各候補に任意の保有率を設定する(各候補者の保有率の初期値は本来のミーク法の意図から考えると超過票を有する候補に対しては【基数/暫定得票数】、そうではない候補には1を設定するべきである。しかし、後に紹介するように全ての候補に一律で1や0ではない最小の保有率を最初に設定する方法もある。なお保有率は0以上1以下の範囲でのみ定めることができる)。
・全ての有効票を内容が全く同一である票ごとにグループ化し、各グループの票を票に記された候補者名と支持順位に基づいて、より支持順位の高い候補者から順に分配する。その際に、各候補に保有される票の割合は、それらの保有率に基づいて決定する。

・各候補に設定されうる全ての保有率の組み合わせについて以上の処理を実行し、その結果すべての候補者が「基数を上回る数の票を有する」あるいは「基数以下の数の票を有し保有率が1である」状態となる保有率の組を明らかにする(どうやらドループ基数を用いる場合もこの条件であるようだ。分配の結果がその条件を満たすとき、基数を以下の得票である候補は自身の初期票や移譲票を一切他の候補に移譲しない)。基数以下の数の票を有する候補者の保有率が1であるとき、他の候補に票を移譲するのは超過票を有する候補だけとなる。
・上記の条件を満たす全ての保有率の組み合わせを明らかにするためには、各候補者に設定される保有率のパターンが有限個でなくてはならない。したがって、各候補者に設定される保有率は、その保有率の桁数を制限することなどによって有限化しなくてはならない。ちなみに、このときに定まる保有率の変動幅の最小値をどのように設定するのが最適であるのかは私にはわからなかった。とりあえず計算簡易化のため本著の後の部分では0.1刻みとしたが、実際にはより正確な結果を導くためにもっと幅を小さくした方がよいだろう。
・基数は、保有率の組ごとに算出される。基数は、設定された保有率に従って票を各候補者に分配した後の、各候補者が保有する票の総数に基づいて算出される。ヘア基数を採用する場合は、【票の総数/定数】が基数である。


・先述の条件を満たす保有率の組の内、保有率が最小である保有率の組を明らかにする。そして、各候補者の保有率がその保有率の組であるときの、得票数が基数を上回る候補者を全て当選者とする。ちなみに、保有率が最小である保有率の組とは、すべての候補者の保有率が条件を満たす全ての保有率の組における各候補の保有率の中での最小値である組のことである。

・当選者数が定数を下回る場合、票の分配処理を行った後の得票数が最も少ない候補者の保有率を0としたうえで、再度以上の処理を実行する。保有率が0である候補者は自身に投じられた票と自身に移譲された票の全てを他の候補に移譲することとなる。その結果その候補が当選することはなくなり、他の候補の票が増えることで新たに基数以上の票を得る候補が出る可能性が高くなる。


◇計算処理効率化
ミーク法を実施する単純な方法は、候補者の保有率の全ての組み合わせについて各候補者の得票数の計算を行うというものである。そうすれば、超過票を保有する候補者の保有率が最も小さくなる保有率の組み合わせを確実に見つけることができる。しかしそれでは、計算量が多くなりすぎるという問題がある。その問題に対処するためには、集計過程において検証しなくてはならない保有率の組を削減することが必要である。


・保有率を引き下げることにより最適な保有率の組み合わせを見つける方法
全ての保有率の組について票の分配の結果を確認するための方向性の一つとして、全ての政党の保有率を1と定めたあとに、徐々に各政党の保有率を引き下げていきながら全ての保有率の組について票の分配処理を実行するというものがある。その方針を取る際には、集計実行過程の各段階において超過票を有する候補者の次の保有率を【基数/暫定得票数】を上回る最も小さな保有率に設定することで、超過票の保有者がそれを上回る保有率を設定させられた場合についての分配処理を省略することができる。

ただし注意が必要なのは、「どの超過票保有者についても保有率を一段階引き下げると得票数が基数未満かつ保有率が1以外となる状態」となっても、それが最小の保有率の組であるとは限らないという点である。どうしてそうなるのかというと、ある候補に一時的に得票が基数を下回るような保有率を設定したのだとしても、それによって得票が増加した他の候補の保有率を引き下げることでその候補が再び基数を上回る得票を有する可能性があるからである。そのため、保有率を徐々に引き下げていく方法を用いる際には、先述の状態となった後には各候補の保有率がその状態以下の全ての場合について票の分配の結果を確認しなくてはならない(※頑張ればもうすこし効率化はできるかもしれない)。


・保有率を引き上げることにより最適な保有率の組み合わせを見つける方法
上記とは逆に全ての候補の保有率を保有率として定められる値の内0を上回る最小の値に設定し、徐々に各政党の保有率を引き上げていくことで集計を実行することもできる。

 

 

◇その他
自分が検証した限りでは、ミーク法も戦略的投票による結果の操作からは逃れられない。以下にその検証を行う際に作成したExcelの表及びメモを載せておく。以下では各候補者の保有率を最初に0.1に設定し、その後画像の右側に表記された保有率をコピーし、それを各候補の保有率の部分に貼り付けることで、徐々に各候補者の保有率を引き上げていく。




○おまけ
私は移譲法について三週間以上の時間を取って考察を行ったが、明確に優れているといえるような手法は思いつかなかった。しかしそれほど長い時間をかけて考えたものを何も載せないというのも悔しいので、私が思いついたものの中で最も有用であると思われる手法を以下に解説する(ただし、英語の論文などを調べれば、既に私以外の者によって開発されているそれと同様あるいはそれ以上の手法が見つかるかもしれない)。なお、以下の手法においては超過票の移譲より先に落選者(正確に言えば得票数が少ない候補者)の票の移譲を行う。


◇第一分配
全ての有効票を、その支持順位一位の候補者名に基づき、各候補者に分配する。


◇落選者票移譲(最小得票者票移譲)
第一分配によって基数を上回る票を得た候補者の数が定数に達さない場合、全ての候補者が基数に達する票を得ている状態になるまで、最も得票数が少ない候補者の票を他の候補に移譲する(得票数が最小の候補が複数名いる場合は、くじなどによって優先的に票を移譲する候補を決める)。その際には、既に基数に達する票を得ている候補者に対しても票を移譲する。そして、それによって基数に達した候補者が現れた場合にはその候補を当選確定者とする。


◇超過票移譲
落選者票移譲によって当選者が全て確定しない場合、当選確定者が保有する超過票を当選確定者以外の候補に移譲する(それらの候補の得票はそれを開始する時点では落選者票移譲によってすべて移譲済みであるため0である)。移譲する票は、各票に記された当選確定者以外の候補の中で最も支持順位が高い候補に移譲する。そしてその後落選者票移譲の段階に戻る(当選確定者はその段階のみで生じさせる)。


◇落選者票移譲と超過票移譲の繰り返し
落選者票移譲と超過票移譲の流れは、当選確定者の総数が定数と同数になるまで繰り返す。ただし、落選者票移譲で得票数が基数を上回る候補が最後まで出なかった場合、最後の落選者票移譲で残りの候補が「定数-当選確定者数」と同数となったときの候補者を当選確定者とする。

 

◇以上の手法が意味するもの
以上の手法では、最初に第一分配及び第一落選者票移譲によって基数に達するほどの支持があることが明らかとなった思想グループ(同一の議員に投じられた票の投票者は、その候補をより強く支持しているという共通性から同一の思想グループに属すると判断する)に一議席を与える。これにより、少数派を含め議席を得るにふさわしいだけの支持率がある集団に議席を獲得させることができる。そして次に、超過票を移譲することによって、人数が多い集団がその人数に見合った議席を獲得することができるようにする。以上の手法は場当たり的修正を繰り返して作り出されたものであり、グレゴリ法と比べて優れているということの確認はまだされていないが、少なくとも先述の票の構成例においては、AやBの初期投票者による戦略投票(明らかに悪い結果を導く投票は戦略投票に含まれない)に左右されずにABDを当選させることができる(追記:AとB中のC支持者が協力して戦略投票した場合は結果が変わる。このことを加味するとまずますこの手法の戦略投票の抑止効果は限定的になる)。ただし、グレゴリ法にはない問題がどこかで発生している可能性があるという点には注意が必要である。また、AとBの票の比率が141:129である場合は、B中のCの支持者の戦略投票により最初の時点でCが101票を獲得するため、ABDが当選者となることが望ましいにもかかわらずABCが当選者となることは避けられない。むろん私はそのような問題を排除し戦略投票の影響を一切受けない集計方法を編み出すことも考えた(※1)のだが、いい方法は思いつかなかった。もしかすると戦略投票の影響を排除した公平な移譲法は存在しえないのかもしれない。

諦め:戦略投票で結果を左右しうる制度であっても、その影響の度合いの最大値が小さいのであれば問題視しなくていいだろう。そもそも戦略的投票の影響を含めて選挙結果を正確に予測することは難しいため、人々は理論的には可能であっても実際に戦略投票を実行することがあまりないかもしれない。

※1:当選者を確定させるたびにそれ以外の候補者を対象に全ての票を用いて再度集計を行う手法などを考えた。しかしその方法は、全ての当選者が多数派のグループから選出される結果に終わった。


◇補足
・次の移譲先が指定されていない票の移譲について
私は当初、ある候補者から超過票の移譲を行う際に、その候補が保有する票の内次の移譲先が指定されていない票グループからは、票の移譲を行わず【その票グループの総票数×移譲価値】分の票を消滅させることが望ましいと考えていた。何故ならば、そうしなければ、そのグループから票の移譲が行われない分、他のグループから票が移譲されることになり、移譲先を示さない票の力をそれ以外の票が利用する形になると考えたからである(それは、投票者が本来意図しない影響を選挙結果にもたらすことにつながる)。しかし、一方で、そのような手法を使うと死票が発生するし、特定の思想集団が特定の票に過剰に票を集中させ、更に次の移譲先を票に記入することを怠る傾向が強い場合に、その思想集団から排出される当選者が著しく少なくなる恐れがある。そのような問題に対処するためには、もしかするとある候補から他の候補に票を移譲する際には、移譲元の超過率(=移譲価値)を【移譲元の超過票数/(移譲元の得票数-次の移譲先が記されない票の数)】によって算出し、それによって算出される値を、移譲元の票を次の移譲先の名前に基づき分類してできたグループのうち次の移譲先が明記されている票グループのそれぞれに対して掛け合わせて求められる数の票を、それらのグループから移譲することが望ましいのかもしれない。そして、その場合、自身と似たような思想を持つ他の投票者によって投じられる票の効力を増したくない投票者は、票に記す候補者名の数を最大にするように努めるべきである。


・票の物理的移譲を行う際に必要な労力量について
以上の手法では一度特定の候補に集めた票を再び他の候補に移譲することから、全当選者の確定までに多くの労力がかかるように見える。しかし、落選者票を移譲する際に、移譲先となった候補者内で、移譲によって獲得した票を移譲元となった候補者名ごとに分けて保持しておくことで、当選確定者から票を移譲する際の労力を減少させることができるはずである。

手作業で票の移譲を行う場合、超過票を移譲する際には移譲元の超過票以外の票も含む全ての票を当選非確定者に移譲する。ただしその際には移譲される票の束に、その束の票の数と移譲価値(移譲元超過票数/移譲元得票数)の値を示すラベルを張り付けておく。そして、移譲先で票の数を数えるときは各票の束の票数を、束の票数に移譲価値を乗算した値としてカウントする。


〇結局私はどの制度を支持するのか
正直どの制度がよいのかは私には判断しきることができない。しかしそれでも現状の私の直感に基づいて採用するべき制度を判断するのであれば、私が推奨する制度は推奨度の高いものから順に「ミーク法」「重み付き包括グレゴリ法もしくは包括グレゴリ法(どちらがいいかは最後までよくわからなかった)」「オリジナルのグレゴリ法」である(いずれもヘア基数を用いることを想定しているが、私が知らないドループ基数を支持する重大な理由があるのであればそちらでもよい)。以上の内どれを選ぶのかについては、複雑な集計を行う能力がどの程度あるのかによる。その力が低い場合にはやむを得ず推奨度の低い方法を使うことが肯定される。

なお、もし私が考えた手法が優れたものであることが確認できたのであれば、私がその使用を推奨することもありえるかもしれない。

補足:包括グレゴリ法を使用する場合、移譲票を有する超過票保有者の超過票を移譲する際に、まず最初にその人が保有する超過票の数を算出し、次にその人が保有する移譲票をその移譲元で移譲価値が乗算される前の状態に戻し、初期票と票数が初期値に戻された移譲票の双方からそれらの票数に【最初に算出された超過票数/移譲票初期化後の総得票数】を乗算して求められる数の票を他の候補に移譲することを推奨する。

 

◇余談1
以下に私が移譲法を考えるにあたって考慮した事項をまとめておく。ただし、私が解説した手法にそれらが反映されているとは限らない。

私が移譲法を構築するにあたって達成を目指した条件
1.投票者が戦略的投票によって自身にとってより望ましい結果を導くことができない
2.全ての票が同程度の影響を集計の結果に与える(必然的に死票がないことが求められる)
3.現実に実行可能な手法である
4.以上の条件を満たす結果の異なる集計法が複数ある場合は、更に別の観点を考慮することで最善の方法を判断する。
5.1~3の条件に両立しないものが含まれる場合、3>1>2の順に実現を優先する(※この条件は単に私の好みに基づく)。ただし、戦略的投票による変動幅が小さい場合は、2を優先して良い。

各票の自身を最終的に保有する候補の票内の支持順位を、票の達成順位と称する。例えば、候補者Aを支持順位一位として記述した票が、最終的にAに保有されることとなった場合、その票の達成順位は1である。理想の移譲法を考える際には、全ての票の達成順位を最小化することや、当選者間で各当選者が保有する票の平均達成順位の格差を最小化することなどが考えられる(しかし私がそれらの考えに基づき構築した集計方法は戦略投票の影響を排除できず失敗した)。ある候補から他の候補に票を移譲する際には、移譲対象として選択された票は達成順位が引き下げられるため不利に見える。しかし実際には、その票は移譲元の当選を確実としたままに他の候補の当選の結果に影響を与えられるため有利である。

全ての票が同程度に影響を与えるとはどういうことだろうか。私が思うにそれは少なくとも全ての票が最終的な当選者の保有する票全体の内部において、一票としてカウントされていることであると思う。また、更に、それに加えて各票の達成順位が同程度であることが理想であるのかもしれないが、少なくとも私にはそのようなことを達成できる方法は思いつけなかった。

移譲法物質的構造
・候補者(候補者数、候補者名)
・票(順位&候補者名)
・議席


超過票を移譲するにあったっては少なくとも次の要素についてどういう選択をするかを考えなくてはならない
・超過票の判定基準
・超過票を保有する候補者の票を移譲する順番
・同一候補内の票の移譲優先順位
・票の移譲対象の選択


支持率60%の思想集団A
支持率20%の思想集団B
支持率20%の思想集団C
それぞれ10人ずつ候補者擁立で定数10とする
その場合、Aから六人、Bから二人、Cから二人が選出されるべきである


◇余談2
日本の学術界では移譲法はその結果が党派比例的になることから比例代表制のうちに含まれるものとして考えられているようだ。しかし、私には選挙制度を当選した候補者に付与される権限が同一であるか票数に比例するのかという点で区別した方が選挙制度の全体像をより簡潔に記述できるように感じられたため、私は前者に得票数順当選制、後者に比例分配性という名称を付与し、定義から得票数順当選制に含まれる移譲法を比例分配性の範囲外の手法とした。

 

 

得票数順当選制:その他の方法

得票数順当選制としては、移譲法以外にも、順位をつけずに複数の対象に投票する方法(複票式投票。投票者が同一の対象に二度以上票を投じられるようになっていることもある)、複数の候補者に点数をつける方法(ボルダ式投票)などが考案されている。いずれの方法も、より多くの票や点を得た候補から順に当選が確定する。前者の手法には、投票者が自身にとって最善の候補以外にも票を投じることができるというメリットがある。後者の手法には、投票者の支持順位二位以降の候補者に対する意思も不可避的に選挙結果に影響を及ぼすというメリットがある(通常の移譲式では、各票は最終的な移譲先となった候補より支持順位が低い候補についての意思を選挙結果に反映させられない。例えば最終的に支持順位一位の候補に保有されることになった票の、支持順位二位以下の候補の順番を入れ替えても選挙結果に何ら影響を及ぼさない)。ただし現実の選挙で多く使われているのは移譲法である。

複票式とボルダ式のいずれの手法も移譲法と同様に戦略的な投票による結果の操作からは逃れられない。例えば、単に候補者のうちより多くの票や点を獲得した者から順に当選者とするのであれば、過度な票や点を集めた候補への投票者が戦略的に下位候補の内より望ましい者に投票して結果を変えることができる。検証が不十分な個人的な見解に過ぎないが、複票式は特に超過票をより少なくできる集団や与えられた全ての票を用いることを怠らない集団に著しく有利な手法であるため、現実の選挙には用いず精々漫画やアニメのキャラクターの人気投票に用いる程度にした方がよいだろう(人気度を示すことが目的の投票においては、過度な票の集中も人気度の高さを示すものとして肯定される)。ボルダ式投票についても、特定候補への点の過剰な集中を戦略的に抑制できる集団が強い状態を解決し難いため、私は重大な選挙においてはその採用を支持しない。

ちなみに各投票者が同一の対象に複数の票を投じることが認められない複票式では、投票者に配られる票の数が候補者の数と同一である場合に、全ての投票者が全ての票を誰かに投じることで全ての候補者が同じ数の票を保有することになる。

 

比例分配制

比例分配制とは、先述の通り各当選者に対して得票数に応じた大きさの権限(※議会における議決権や発言権などの議員選出権ではない権限)や議席(※これは議員選出権と言い換えることもできる)を付与する方法のことである。本著では更にその方法の内の票を得た候補者に権限を分配する制度と議席を分配する制度をそれぞれ比例権限制、比例代表制と称するものとする。

比例分配制では個人が候補者となる制度は好ましくない。何故ならば、そのような制度下では個人に対してその得票数に応じて政治的な権限や議員選出権が付与されることになるが、その場合個人に多くの票が集まってしまうことでその者による独裁を招く恐れがあるからである(※1)。従って私は個人が候補となる比例分配制を推奨せず、その制度に関する解説は以下では行わないものとする。また、集団が候補となる比例分配制の内でも、比例権限制については十分な考察時間を取れなかったため軽度の解説をするに留めることとする。


・集団が候補者となる比例権限制について
票を得た集団に付与されるものが権限である場合、その集団は何らかの形で集団全体の意思を決定ないし表明し、それに基づく形で権限を行使することになる。しかしもしその集団の内部の意思決定プロセスが少数の人間に権力が集中するものである場合(※集団内の人数がそもそも少ない場合や集団内の人数が多いが権力がそのごく一部に独占される場合がこれに該当する)、やはり権力集中の対象となる者による独裁を招く恐れがある。比例権限制を採用しながらもそのような問題が起こることを避けたいのであれば、権限が付与される集団内の分権化を外部から強制しなくてはならない。そして、そのためには集団内の各個人に確実に政治的権限が分散して所有されるようにしなくてはならないが、それによってできる制度は「実質的な比例代表制」か「それに類似する制度(※2)」となるだろう。

※1:もしそれでも個人が候補となる比例分配制を採用したいのであれば、その個人がいくら票を得たとしても手に入れられる権限が全権限の内でごく一部にとどまるようにしなくてはならない。

※2:集団の得票数に比例して付与された権限が最終的に票を得た集団内の各個人に所有されることになり、なおかつ権限を保有する者の数が集団の得票率に比例せず集団間で各個人の持つ権限の大きさに差がある制度が考えられる。例えば20の権限を付与された集団が10人のそれぞれに2の権限を与え、10の権限を付与された集団が10人のそれぞれに1の権限を与えるような制度がそれに該当する。


・集団が候補者となる比例代表制について
集団(※多くの場合この集団とは政党のことを指す)が候補者となる比例代表制では、投票者は集団に票を投じ、票を投じられた集団は得票率に応じて議員を選出することとなる。この制度の下では、候補者自体は集団であったのだとしてもその後権力を握るのは複数名の議員であるため、よほど各議員の間で権力保有量に差がない限りは自ずと権力は分散することとなる。しかし、逆に言えば議員ごとに保有する権限の大きさに差がある場合は大きな権限を持つ議員による独裁を招く恐れがあるため、議員となった者に付与される権限はそれぞれ同じ大きさであるようにしなくてはならない。

集団が代表選出権を行使する際に、少数の人間によって代表者が決められるようであれば依然として個人候補者の比例分配制と同様の独裁化リスクが存在することになるため、それに対しても適切な対処をしておかなくてはならない。その方法としては、候補者となる集団に、選挙の前の段階で、「獲得した議席を誰に割り当てるのかを定める議員候補者のリスト」を作成させておくことが考えられる。そのように候補者集団に事前に議員の候補者の名簿を提出させることで、国民によるその集団への監視は容易となり、集団内部の権力者が自身の都合で議員を選ぶことを抑止することができる。

また、国民自身が独裁的な思想や体制を持つ集団に票を投じないようにすることも大切である。例えば候補者である集団内部の議員の候補のリストを作る権限を持つ者が少人数であり、更にその権限を使って自身の都合で議員を統制しようとしたり、異論を認めず自身とほとんど同じ思想を持つ人間や自身に従順である人間ばかりを候補者リストに入れたりするような場合は、その者が属する集団には投票しないようにするべきである。何故ならば、そのような集団が権力を握ると議員間の権力分立が達せられず危険だからである。


・比例代表制の実際的な分配手法
各候補者集団に得票数に比例した数の議席を付与したいのであれば、単純に考えると各候補には【定数×得票率】の値と同数の議席を分配すれば良いように思われる。しかしその値は整数であるとは限らず、整数でなかった場合には、小数点以下の数値を適切に処理することが必要となる。そして、そのために編み出されたのが以降で解説する方法である。それらの方法は、各候補の得票率と議席占有率の関係性によって、乖離度最適化法と、占有倍率最適化法の二種類に分類できる。

なお、定数を【総有効投票数/各候補者の得票数の最大公約数】まで増やすと、【定数×得票率】は整数となる。しかしその手法は定数が大きくなりすぎるため現実に採用することは難しい。

 

比例代表制:乖離度最適化法

乖離度とは本著では各候補の得票率と議席占有率の差の絶対値のことを意味する。そして乖離度最適化法とは、乖離度の値を基準に最適化された集計法のことである。有用な乖離度最適化法には、各候補者の得票率と議席占有率の差を最も小さくすることを目指す方法である「乖離度最小化法」がある。

◇乖離度最小化法(乖離度最小化法-1)
この方法ではまず各候補に議席を議席占有率が得票率に最も近くなるように分配する。例えば、定数が5の選挙がある地域が行われたとする。そのとき、いずれかの候補者が一議席獲得した時の議席占有率は20%、二議席獲得した時の議席占有率は40%となる。そして、もし候補者Aの得票率が35であれば、それに一議席を与えたときの得票率と議席占有率の乖離度は15、二議席を与えたときの乖離度は5となる。従って、各候補者の乖離度を最小に抑えるためには候補者Aに議席を付与すればいい。

また、その方法で各候補に分配する議席数を決めていくと、分配される議席の数の合計が定数を上回ったり下回ったりすることがあるが、そうなった場合は全体の乖離度すなわち全候補の乖離度の計が最小となるように、既に配った議席を剥奪したり新たに議席を付与することで分配する議席の数を定数と一致させる。付与した議席を剥奪する場合は、議席を過剰分配された候補(議席占有率が得票率を上回った候補)のうち、乖離度がより大きい候補から議席を剥奪することで、その候補及び全体の乖離度の増加をより小さくできる。議席を新たに付与する場合は、過小分配された候補(議席占有率が得票率を下回った候補)のうち、乖離度がより大きい候補に議席を付与することで、その候補及び全体の乖離度の増加をより小さくできる。


乖離度最小化法の具体的な手順は以下のとおりである(※図1参照)。

1.[(1/定数)×100]により、各候補が一議席獲得した場合の議席占有率(※以降、一議席獲得時議席占有率)の大きさを求める。また、[(得票数/総有効投票数)×100]により各候補の得票率を求める。

2.候補者ごとに[得票率/一議席獲得時議席占有率]の値を求め、それを四捨五入した値と同数の議席を各候補に与える。なお、以降はこの分配を第一分配ということとする。

3.第一分配により分配された議席の総数が定数を上回る場合、3の手順で四捨五入により小数点以下が切り上げられた候補(すなわち第一分配で過大に議席を配られた候補)のうち、[得票率/一議席獲得時議席占有率]の値の小数点以下の数値が小さな候補から順に分配した議席の計が定数に達するまで議席を剥奪する。
逆に第一分配により分配された議席の総数が定数を下回る場合、3の手順で四捨五入により小数点以下が切り捨てられた候補(すなわち第一分配で過少に議席を配られた候補)のうち、[得票率/一議席獲得時議席占有率]の値の小数点以下の数値が大きな候補から順に分配した議席の計が定数に達するまで議席を付与する。
なおこの段階は第二分配ということとする。


この方法を使った場合、各候補の乖離度の計は最小に抑えられ、各候補の乖離度は一議席当たり議席占有率をこえない。

図1

◇ヘア=ニーマイヤー方式(乖離度最小化法-2)について
私は先述の乖離度最小化法が乖離度を抑えるという理念を分かりやすく体現する方法であったため、先にそれについて解説した。しかし、実のところヘアー・ニーマイヤー方式(以降ヘアー方式)を使うことで同一の結果をより簡単に導くことができる。従って乖離度最小化法を実践で使う場合はヘアー方式を使えば良い。

ヘアー方式の具体的な手順は以下のとおりである
1.ヘア基数([総有効投票数/定数])を算出する

2.各候補に、その得票数をヘア基数で除算した値の整数部分と同数の議席を付与する(※第一分配)

3.第一分配で配られた議席の総数が定数を下回る場合、[各候補の得票数/ヘア基数]のあまりが大きい候補から順に、分配した議席の総数が定数と一致するまで議席を分配する。


先述の乖離度最小化法(※以降乖離度最小化法-1)とヘアー方式の結果が同一になる理由であるが、まずヘアー方式で第一分配によって配られる議席については乖離度最小化法-1でも同じように分配されるし、更にヘアー方式で第二分配によって配られる議席についても乖離度最小化法-1で同じように分配されるからである。そして、なぜそうなるのかについては、証明したメモを喪失したので読者が自力で考えてほしい。


比例代表制:占有倍率最適化法

占有倍率とは議席占有率を得票率で除算した値である。そして、占有倍率最適化法とは、占有倍率の値を基準に最適化された集計法のことである。私は有用な占有倍率最適化法には、各候補の占有倍率を理想値である1に可能な限り近づける「占有倍率乖離度最小化法」と、占有倍率が最大の候補と占有倍率が最小の候補の占有倍率の差を最小にする「占有倍率格差最小化法」の二つがあると考える。

◇占有倍率乖離度最小化法

占有倍率乖離度とは、占有倍率から占有倍率の理想値1をである引いた値の絶対値であり、その値が示すものは、実際の占有倍率と理想の占有倍率の乖離の大きさである。また、占有倍率の理想値が1である理由は、候補の占有倍率が1となると得票率と議席占有率が完全に一致するからである。

そして、占有倍率乖離度最小化法は、文字通り占有倍率乖離度が最小となるように各候補に議席を分配する方法である。しかし実際には各候補に占有倍率が1に最も近づく数の議席を与えると、分配された議席数の計が定数を上回ったり下回ったりすることがあるので、その場合は各候補の占有倍率乖離度の大きさがより小さくなるようにいずれかの候補の議席を減らしたり増やしたりしなくてはならない。

占有倍率乖離度最小化法における具体的な議席分配手順は次のとおりである(※図2参照)。
1.各候補の得票率と、全候補のいずれかが0~定数個の議席を獲得した場合のその候補の議席占有率を、それらの獲得した議席数のパターンごとに算出する(定数5のとき、議席数0~5の場合のそれぞれについて議席占有率を算出する。その結果は0,20,40,60,80,100となる)。

2.1で算出した議席占有率ごとに、各候補の占有倍率([議席占有率/得票率])を算出する。

3.各候補に、2で算出したそれぞれの候補の占有倍率の内もっとも1に近いものに対応する議席占有率に対応する議席数(これに該当する議席数が二つある場合は、議席0の候補との占有倍率格差を抑えるため小さい方を採用する)と同数の議席を付与する(※第一分配)。

4.各候補に分配した議席の総数が定数を上回る場合、議席を一つ回収した時の占有倍率が最も大きい候補の議席を一つ回収する。各候補に分配した議席の総数が定数を下回る場合、新たに議席を一つ付与した時の占有倍率が最も小さい候補に議席を一つ付与する。

5.4の処理を分配した議席の総数が定数と一致するまで繰り返す(※4と5を合わせて第二分配とする)。

 

図2


◇占有倍率格差最小化法

議席を配られた各候補者は占有倍率が1を上回れば上回るほど実際の得票率より多くの議席を手に入れたことになるし、占有倍率が1を下回れば下回るほど実際の得票率より少ない議席を手に入れたことになる。そして、各候補者の平等性は占有倍率によって図ることができる。各候補者の占有倍率の差が小さければ小さいほど平等であると言える。

占有倍率格差最小化法は、占有倍率が最も高くなる候補と最も小さくなる候補の占有倍率の差を最も小さくする方法、つまり一番得をする候補と一番損をする候補の差を最も小さくする方法のことである。それにより、特定の候補が著しく得をすることや、逆に著しく損をすることを防ぐことができる。

占有倍率格差最小化法の具体的な議席分配手順は次のとおりである(※図3参照)。
1.候補者ごとに得票率を明かにする。また、いずれかの候補が0以上定数以下のいくつかの議席を獲得したときの議席占有率を、獲得した議席数ごとに算出する(占有倍率乖離度最小化法の手順1と同じ)。

2.1で算出した議席占有率ごとに、各候補の占有倍率([議席占有率/得票率])を算出する。

3.議席を一つずつ、分配した議席の総数が定数と一致するまで、次に議席を獲得した時の占有倍率が最も小さい候補に付与していく(※第一分配)。

4.占有倍率が最小の候補が一つのときは、占有倍率の値が最大の候補(複数ある場合はそのいずれか)から占有倍率の値が最小の候補に議席を一つ移譲すると、全候補の占有倍率の最大値と最小値の差がより小さくなるようであれば、実際にその方式で議席を移譲する。占有倍率が最小の候補が複数あるときは、占有倍率が最大の候補から最小の候補へ議席を移譲する処理を占有倍率が最小の候補の全てが一議席を移譲されるまで繰り返す(占有倍率が最大の候補の判定は議席を一つ移譲するごとにやり直す)と、全候補の占有倍率の最大値と最小値の差がより小さくなるようであれば、実際にその方式で議席を移譲する。

5.4の処理を議席が移譲されなくなるまで繰り返す(※4と5を合わせて第二分配とする)。

注意:この方法は検証が甘いため、実際にはいくらか修正が必要となるかもしれない。具体的には占有倍率が中間の候補から占有倍率が最小の候補へ議席を移譲する方法についての検証が成されていない。ただしそれでもドント式よりも占有倍率の格差の最大値と最小値の格差を抑えられるというのは間違いないだろう。

図3

◇ドント方式(最高平均方式)について

今の世界で用いられている比例代表制の主流は先ほど紹介したヘアー式とここで解説するドント式の二種類であり、他(※サンラグ方式等)はそれらの修正版あるいは発展型である。また、ドント方式は占有倍率最適化法の範疇に収まる方法であると思われるが、占有倍率乖離度最小化法と占有倍率格差最小化法のいずれにもあてはまらない。

ドント方式の具体的な議席分配手順は次のとおりである(※図3参照)。
1.各候補に議席を与えたときの議席対価(獲得した議席一つ当たりの得票数。[各候補の得票数/各候補の獲得議席数]によって求められる)を、与える議席の数ごとに算出する。
2.最後に議席を付与された候補の議席対価が最小となるように各候補に議席を分配する。
3.2を分配した議席の数が定数と同じになるまで繰り返す

ドント方式が政党間の格差の最大値を最小に収められない、すなわち最も損をする政党と最も得をする政党を比較した時の不公平の大きさを最小に収められない理由は、ドント式は上を押し下げることはしても下を押し上げることはしないからである。格差の最大値を最小化するには、最も得をする政党の得の程度を抑制する以外にも、最も損をする政党の損の程度を抑制することについても考えなくてはならない。例えば図表3を見ると、占有倍率格差最小化法では第二分配により最も損をする候補に議席を移譲することによって、下を押し上げる処理を実行している。しかしドント式ではそのようなことは行わず、ただ最も得をする政党の得の程度を抑える配分のみを行い続けるのである。

私は現時点で乖離度最小化法のように実際の民意に近い構成の議会を構築できるわけでもなければ、占有倍率格差最小化法のように政党間の格差の最大値を最小に収めるわけでもないドント方式については計算が容易であること以外に採用する意義を見出せないため、その採用を支持しない。ただし、占有倍率格差最小化法を採用すると議席数0の候補が生じることになる場合は占有倍率格差最小化法とドント方式は同一の結果を導く手法となるため、実際の選挙ではそうなる場合がほとんどであるのならば、現実では処理が簡単なドント式の方に軍配が上がるのかもしれない。

 

図4



乖離度最適化法と占有倍率最適化法のどちらのほうがいいか

私は乖離度最適化法(本著では実質的に乖離度最小化法と同義)と占有倍率最適化法では前者の方を望ましいものであると考えている。何故ならば前者は選挙結果が実際の民意の構成に近いものとなるのに対して、後者は得票率の高い候補が民衆の支持以上の力を持つようになるあるいは得票率の低い候補が民衆の支持を下回る力しか持てない傾向があるからである。

そのような傾向が生じる理由は、占有倍率最適化法では、投票の結果が「得票率が上位の候補の絶対的な得票率が小さく、更に得票率が下位の候補が上位の候補の得票率を大きく下回る」という性質の強いものとなればなるほど、上位の候補は全体に占める得票の割合が小さいにもかかわらず政党間の占有倍率の比率を平等にみせるために、より大きな議席数とさせられるからである。参考までにその実例として図5をのせておく。

図5

確かに各候補者の占有倍率を候補者間で比較する場合には、乖離度最小化は不公平であり、占有倍率最適化法は公平であるかのように見える。このことから後者の方法を採用することが妥当だと考える人がいるのも不思議なことではない。しかし各候補の議席占有率と得票率の差の大きさを見る場合には、逆に乖離度最小化法が正当であり、占有倍率最適化法が不当であるかのように見えるのである。以上のことを踏まえてどちらを採用するべきかを判断するのであれば、少なくとも一部の者がその人数以上の力を持つことを防ぐことを重視する私には、前者の方法が答えとなるのである。少数派にもその人数に応じて権限が付与されるその方法を用いることは議会の意思決定速度の鈍化に繋がるが、その問題に対しては一院制を採用するか二院制の国家おいては後に触れるようにどちらかの院のちからを弱めることで対処すればいいのであり、少数意見を\ないことにして対処しようとするのは避けるべきである。

そして、もし乖離度最小化法を採用した結果生じた議席配分に違和感を感じる候補者がいるのであれば、自身と他候補者を比較するのではなく、自身の議席占有率を自身の得票率と比較すればその認識を改めることができるだろう。先ほどの図5の得票率の例では、乖離度最小化法では、AはBの7倍の票を得ているにも関わらずBと同じ数の議席しか得ることができていない。しかし、この場合は、そもそもAは民衆の7%の支持しか得ていないのだから議席占有率が20%や30%、あるいはそれ以上になるほどの議席数を求めるのはおかしいのだと考えるべきである。各政党は多くの議席を獲得したいのであれば相応に民衆の多くの割合から支持を受けることを目指すのが妥当である。

なお、乖離度最小化法と占有倍率乖離度最小化法あるいは占有倍率格差最小化法のいずれの方法を用いるにしても、定数が【全投票数/各候補者の獲得票数の最大公約数】の値に近づくにつれて「全候補の得票率と議席占有率の乖離度が0であり、全候補の占有倍率が1の状態」へと収束していくこととなる。


・アラバマのパラドックスについて
ヘアー方式すなわち乖離度最小化法の問題点としては、アラバマのパラドックスというものが挙げられている。アラバマのパラドックスとは、ヘアー方式を採用すると定数を増加させたときに特定の候補者が獲得する議席数が減ることがあるという現象のこと意味する用語である。その名称は、その現象が、アメリカの1881年の議会において定数の計が1増えたとき、アラバマ州の定数が8から7に減少したことで発見されたことに因む(※比例代表制の集計方法は、各選挙区の定数をそれらの選挙区の人口に比例する形で決める際にも用いられる)。

しかし私はその現象については起きても問題がないと考えている。正確に言えばそもそもなぜそれが問題視されているのかがよくわからないため、現時点では乖離度最小化法を採用しない理由にはならないと認識している。それが問題視される理由は、それを問題視する人が総定数が増えれば各候補者の獲得する議席は現状維持か増えるかのどちらかであるべきだと考えているからであると推測されるが、そうであればそれはその人の妥当ではない思い込みなのではないだろうか。私には、実際の民意により一致する議会を作るという目的のためであれば、その現象は受け入れてもいいものであるように思われる。また、問題は別にあり、定数をきめる人間が自身にとって都合のいいようにそれを行う可能性があるというのであれば、後に紹介する区割りを公平に行うための手法と同様のやり方で対策するか、各選挙区の定数の最低値をある程度高くすることで定数が一変動することの影響を抑えると良いだろう。ちなみにこれも後にも触れることであるが比例代表制ではアラバマのパラドックスに関係なく各選挙区の定数は最低でも8~10程度はあったほうが良い。


比例代表制注意点:党の合併と分離

小政党に有利な比例代表制は政党の分離を招き、大政党に有利な比例代表制は政党の合併を招く。また、阻止条項(得票率がある水準を超えない政党には議席を付与しないことを定める条項)を用いる場合にも、小政党の合併を促す効果が生じる。

分散的実行:空間分散的実行

選挙対象の機関の各部位に対して、それぞれ別の地域で選出することができる。多くの国では国を複数の地域に分割し、各地域でそれぞれ複数名の議員を選出し、それによって選出された議員が集まって議会を構成している。


・区割りとは
区割りとは、選挙を行う地域を複数に分割し、そのそれぞれで個別に代表者を選出する際の、地域を分割する行為のことを言う。区割りによってできた各地域の候補者は他の地域の投票者の票を受け付けることができず、逆に投票者は他の地域の候補者に票を投じることができない。なお、本著では、選挙が行われる地域の内、候補者が外部からの票を受け付けることができず投票者が外部に票を投じることができない地域を選挙区と称するものとする。


・区割りの利点
選挙を行う地域を分割することの第一のメリットとしては、候補者や投票者の負担を減らす効果があげられる。候補者はとりわけインターネット等により遠隔で候補者の情報をあつめることに積極的ではない層の票を獲得するためには自身が立候補する地域を実際に巡回したりその他物質的な手段を用いた宣伝をしたりことによって支持をあつめなくてはならない。しかし、選挙区が広い場合その時間的負担や金銭的負担は大きなものとなる。また、選挙区が大きいと立候補者の数が多くなるため、投票者が自らが支持すべき候補を見つけることが困難となる可能性がある。これらの問題を解決する策として有効なものが選挙を行う地域を分割することである。ただし、それは投票者から投票先の選択肢を減らすことにもつながるため、ほとんど同じような候補者が乱立し始めるわけでもないならば、選挙区を小さくすることには慎重になるべきである。

区割りを行うことの第二のメリットとしては、これは区割りではなく選出する議員の数を増やすことによるものかもしれないが、実質的に代表をもてない地域を減らすという効果が考えられる。各選挙区で一人の代表を選ぶ選挙を行う場合、その選挙区内の人口の半分を大きく下回る人口を持つ地域が、その選挙区内の他の地域と違う思想を持っている場合、基本的には選挙で敗北し代表を持つことができない。だが、選挙区を細かく分割し、その地域が多数派となる選挙区を作ると、その地域からも代表者を選出することができる。ただし、選挙区が大きな場合でも、複数人を選出する場合は少数派でも当選者を出すことができるため、そのような問題が生じるのを避けることができる。

 


・区割りと投票権の不平等
ある有権者が持つ投票権の大きさは、その人が属する選挙区内の投票権の大きさの平等性が保たれている場合、[定数(その人が属する選挙区の定数)/有権者数(その人が属する選挙区の有権者数)]で計算することができる。そして、区割りを行うとほとんどの場合は、選挙が行われる地域全体において各有権者がもつ投票権の大きさには差が生じることになる。

何故ならば、「有権者間で投票権の大きさに差が生じないように」すなわち「選挙区間で[定数/有権者数]の値に差が生じないように」選挙を行う地域の分割と各選挙区の定数の設定を行おうとするとき、定数の大きさはその理想である[全選挙区の定数の計×各選挙区の有権者数の全選挙区の有権者数に対する割合]によって算出される値と同一となるように定めなくてはならないが、その値は整数でないことがあるのに対して定数は整数値でしか定められないため、実際にはどうしても各選挙区の[定数/有権者数]の値同じとならないような定数の設定を行わざるを得ないからである。また、仮にその値が同じになるように選挙区とその定数を定めることができたのだとしても、その後各選挙区の人口が変動することによって選挙時の[定数/有権者数]の値が選挙区間で同じでなくなることがある。

私は既に本著の民主主義の定義を解説する節で触れたように、各有権者が持つ票の価値に差があることはやむを得ない場合には容認されると考えている。そして、以上の事情によって生じる有権者間の政治的権限の格差は、やむを得ないものであると主張する余地がある。ただし、そのことを、投票権の格差を可能な限り是正する努力をしないことや、恣意的にその是正を放棄することの正当化につなげてはならない。例えば、区割りと定数の設定は十分に高い頻度で行うことによって、実際の民衆の居住の状況に沿った選挙を行うようにするべきである。

余談1:以上では暗黙の前提として、「一票の価値の平等は、全有権者に配られた票について達成するべきものである」との考えがある。しかし、時にはドイツのように「一票の価値の平等は、実際に投票を行った者が投票した票について達成するべきである」と考え、投票が完了し各選挙区の投票数が確定した後に各選挙区の定数を定める方法が採用される地域もある。

余談2:各選挙区の人口を完全に同じにすることは難しい。行政の処理は大きな一つの地域(市)ではなくその内部の小さな複数の地域(区)ごとに行ったほうが良いものについては、より小さな地域区分を作りそれによってできた複数の地域でそれぞれ独立して行われることになる。そして、選挙区はそれらの行政処理が行われる地域区分に沿う形で定められた方が、投票の受付と集計を行うことが容易となるため、多くの国では選挙区の設定を行政処理分担のために作られた地域区分に基づくやり方で定めている。しかし、それらの地域は人口が同じになるように定められたわけではないため、それに基づいて定められた選挙区の人口もまた選挙区ごとに違ったものとなりやすい。また、選挙区の設定をより細かい地域区分に基づいて行うようにしつつ、より大きな地域区分を跨いで行えるようにすることで、各選挙区の人口をより選挙区間の差のないものにすることができるが、その場合は次に示すゲリマンダー等の操作が行いやすくなるというデメリットがある。


・区割りと公正さの確保
どのように選挙を行う地域を分割するかを決定する権限を持つ政党は、特に対策がされていなければ自身がその支持率以上の権限や代表者を持つことになるように選挙区を設定することができる(※そのような操作はゲリマンダーと言われる)。

その第一の方法としては他党の死票を増やし、自党の死票を減らす方法があげられる。議会の多数派を構成することなどによって区割りの行い方を自在に決められるようになった政党は、世論調査を通してどの地域がどの政党を支持する傾向が強いのかを詳細に明らかにし、自党と他党の支持率に大差のない選挙区の内に他党が有利である地域があることが判明したとき、その地域を自党が圧倒的に有利である選挙区にその区の選挙結果が覆らない程度に合併(※1)することで、その地域の住民による他党への票を死票とし自党に有利な結果を導くことができる。あるいは、逆に自党が圧倒的に有利な選挙区からその内部の自党にとって有利な地域を、その選挙区区での選挙結果が変わらない範囲で自党と他党が接戦である選挙区に移すことで、自党に必要以上に投じられた分の票を無駄にならないようにすることができる。

第二の方法としては、他党の票の価値を落とし、自党の票の価値を高める方法があげられる。区割りの決定権を持つ者は選挙において自身が不利となる選挙区の定数に対する人口の大きさを大きくすることによって、自身を支持しない候補者の一票の価値を減らすという手法も存在する。

区割りは原則として特定の政党の都合ではなく地理的要因などによって定められるべきであり、各選挙区の人口をできるだけ等しくすることで一票の価値の調整による選挙結果の操作を防がなくてはならない。以上のようにある政党が自党に有利となるように選挙区を定めることは、政党間の公正な競争を妨げるため不当である。従ってそれらの手法には何らかの対策を打たなくてはならない。その対策としては、区割りを行う際に少数派も十分に影響力を持てるようにするか、中立性が確保できる第三者に区割りを行わせることが考えられる。少数派の影響力を高めるためにはときとして少数派をいくらか優遇することが必要となり、それに対して不公平さを感じる者もいるかもしれないが、そのことは多数派が少数派に転落した場合に新たな多数派による横暴を防ぐことにもつながるため、その優遇の程度が過度でなければ容認するべきである。また、一つの選挙区で一人を選出する制度ではなく、一つの選挙区で複数人を選出する制度を採用することも不当な区割りへの対策となる。何故ならば、後者の制度では、少ない得票率で議席を得ることができることから、接戦選挙区の他党有利の地域を自党有利の選挙区に移譲するとき、その移譲のされる地域の人口の大きさが少し大きくなるだけで移譲された側の区で他党が議席を獲得することになり、そのことは選挙全体で投じられた票の数に対する他選挙区への他党有利地域の移譲によって死票にできる他党の票の割合の上限が小さいことを意味するからである。加えて、その制度下では自党が圧倒的に有利な選挙区では複数の議席を得ることができるためそもそも死票の数が多くなく、その結果自党有利の地域を接戦選挙区に移譲することによって有効な票に変換できる死票の数自体も少なくなる。


・民族や宗教、年齢等による空間分散的実行
議会の各部位を、民族や宗教、年齢ごとに選出する制度も空間分散的選挙として捉えることができる。

※1:一人選出かつ他党の勝利が確実である選挙区のように、ある党がそれ以上の票を得ても獲得する議席を増やせない状態にある選挙区に、接戦選挙区のその党有利の地域を併合することによっても、戦略的に特定の党の死票を増やすことができる。


分散的実行:時間分散的実行

選挙対象の機関の各部位について、それぞれ別の時期に選出することができる。例えば日本では参議院(二つある議会の内の片方)については、議員の任期を6年とした上で、議員の半数についての選挙をもう半数についての選挙が行われてから三年後に行う制度が採用されている。この制度の利点は議員の任期が長いことによって議会の意思と民衆の意思の乖離が大きくなることを抑制できることである。ただし、その代わりそれらの意思が最も近づくタイミングの乖離が大きくなることには注意が必要である。なぜそういえるのかというと、議会と民衆の二つの意思の乖離の程度を、議会の議員が最後に民衆によって選ばれてから経過した時間で図る場合に、6年おきに全議員を選ぶ方法だと「乖離度の最大値が全議員6年、最小値が全議員0年」となるのに対して、3年おきに半数の議員を選ぶ方法だと「乖離度の最大値が半数の議員6年もう半数の議員3年、最小値が半数の議員3年もう半数の議員0年」となるからである。

補足:日本の第一期の参議院議員の内の半数は、任期が三年である。これはつまり、最初の参議院議員選挙では全ての参議院議員が一度に選出され、三年後の選挙では事前に定められていた議会の半数に相当する数の参議院議員のみが選びなおされたということである。この事は日本国憲法の補則から読み取ることができる。

 

複数回の実行

選挙の一連の流れは同一の選挙対象に対して複数回行われることがある。

・二回投票(決選投票)

二回投票は一人の代表を決める際に必ず過半数の支持を得た人を代表とするためにつくられた方法である。一回目の投票で過半数の票を得た候補がいない場合、上位二名を対象にして2回目の投票を行う(ただし、二回目の投票で二人の候補の獲得票が同数である場合はくじで結果を決めることが考えられる)。この二回投票の手法は次に紹介する複数回投票と違い、ある回の投票で切り捨てられた候補者の支持者が、次回の投票で次善の候補に投票しようとしてもその候補も落選済みであることになる可能性がある。そして、そのことは次の複数回投票を採用していた場合には移譲によって当選者となっていたはずの候補者が落選することに繋がる恐れがある。例えば投票者集団の40%が支持する政策Aの実現を目指す候補者が二人、60%が支持する政策非Aの実現を目指す候補者が10人存在し、それぞれの候補者グループ内で票が均等に分散した場合、政策Aの候補の得票率20%、政策非Aの候補の得票率6%となり、決選投票に進むのは政策Aを支持する候補のみとなる。しかし、そのとき次の複数回投票の方法を使っていれば、最終的な当選者となるのは政策非Aを支持する候補となる。

・複数回投票
m人の代表を選ぶ選挙でそれを上回るn人の候補がいるとき、投票を行うたびに最下位の候補を落選者とし、残りの候補者の数がm人と一致するまでに投票を繰り返すことで、先述の落選者の票のみを移譲する移譲法と同一の結果を導くことができる(※ただし、投票者が投票のたびに候補者の支持順位を変更しないことを前提とする)。また、その方法を使う時投票回数はn-m回となる。

・再選挙
選挙の過程で不備や不正があった場合には、再選挙が行われることがある(不備や不正の程度が微細である場合は行われないこともある)。

・補欠選挙
議員の死亡や辞職によって、議員に欠員が出たときにそれを補充するために行われる選挙。

・間接選挙
国によっては、アメリカの大統領選のように、特定の地位に就く者を選出する際に、まずその選出を行う人を選出し、それによって選出された人がその地位に就く者を選出する制度が採用されることがある。また、日本の首相を選ぶのは議会の議員であり、民衆が選ぶのは議会の議員であるが、このことをもって日本では首相を間接選挙によって選んでいるということもできるかもしれない(※ただし、議会の議員の選挙は首相を選ぶことが主目的ではないので、狭義の間接選挙には含まれない)。

 

クオータ制について

クオータ制とは

選挙において、クオータ制とは各政党の候補者名簿の候補者名や議会の議席の一定割合を特定の属性を持つ者に限定して割り当てる制度を意味する。その目的は主に過少に評価される少数派が正当に評価される状態を作り出すことである。しかし私は現時点ではクオータ制の採用には否定的である。

クオータ制のリスク

クオータ制には特定の属性を持つマイノリティを優遇することで、それ以外のマイノリティを冷遇することに繋がるリスクがあるかもしれない。なぜそう言えるのかというと、マイノリティ(以降女性がこれに該当すると仮定する。女性は全人口の半分を占めているが、現状は権力を保有する集団内部においては少数である)の不利益を埋めるために、その集団に対してその有権者全体中の人口に応じて強制的にある水準を超える割合の候補者名簿の枠を割り当てようとするとき、既に名簿に名前が記載されているマジョリティ(以降男性がこれに該当すると仮定する)の集団のうちの前記のものとは別種のマイノリティ(男性かつ性別以外の少数派の属性を持つ者。ここでは少数民族と仮定する)から名簿の枠を剥奪され、それによって生まれた枠にマイノリティ中のマイノリティ(ここでは女性かつ少数民族と仮定する)ではなくマイノリティ中のマジョリティが収められる可能性があるからである。そうなれば当然それらのマジョリティ及びマイノリティ中のマイノリティの枠は削減されることになる(なお、このとき、性別ごとに議席や候補者の枠を割り当てる方法を採用した結果男性の候補者の削減が起こったのだとしても、削減されるのが単に能力の低いものであれば問題はない。しかし、その他の少数派の属性を持つ者の枠が減る恐れがあるのであれば、やはりそれは安易に正当化するべきではないだろう)。

以上のクオータ制による問題に対処する方法として、議席を強制的に割り当てる対象とする属性を拡大するということが考えられる。例えば性別だけでなく、民族や宗教の観点からも議席割り当てを行うようにすることで、その問題には対処することができるように見える。しかし、その方法は結局それら以外の観点から見たときの少数派の保有する議席が減少する恐れがあるため、本質的な問題解決にはならない。特に、少数民族等の分かりやすく差別されがちな存在であればクオータ制によって支援されやすくそうでなくとも政党が意図的にそれらの人々の枠を増やそうと配慮することで大きな問題にならないかもしれないが、少数派には政治思想の観点からの少数派も当てはまりそれらについては前述の属性よりも保護するべきマイノリティ扱いされることが少ないため人口に対する割合より小さな権限しか持たないように排除されたのだとしても人々がそのことに気づかない恐れがある。

なお、私のここまでの心配が杞憂という可能性はないわけではない。例えば、マジョリティの候補者名簿の枠の削減がその内部に存在する多数の集団に平等に分散的に行われ、なおかつマイノリティの起用もまたその内部の多数の属性ごとに分散して行われる(更に既存の集団に代表が存在しないが代表されるべき重要な属性があるのであれば、その属性を持つ候補者がマジョリティマイノリティ問わず起用される)ようであれば、恐らくマイノリティ中のマイノリティの排除は生じない。だがこのときに問題になるのが、候補者名簿の作成時にそのような分散的削除と分散的起用が達せられるとは限らないことである。そもそも政党内部の自主的配慮によって特定の属性を持つ人の候補者の数を適正な状態に持っていけるというのであれば、クオータ制によって支援されるマイノリティについても同様に制度なしの配慮によって後者の数を適正にできるはずである。しかし、それができないからこそクオータ制を採用しようとしたのであり、であればクオータ制による利益を受けないマイノリティに対してだけは政党の自主的な配慮でどうにかなるというのは不自然である。そして、制度なしには特定属性を持つ候補者の割合を適正値にできない状態で特定の属性に対してクオータ制を採用するのであれば、クオータ制によって候補者名簿の枠の割り当てが行われなかった層に負担が寄っていく恐れがある。

また、分散的削減、分散的起用の際にもう一つ気をつけなくてはならないのは、以上はクオータ制で支援される人々の中の代表者としてふさわしい実力を持つ者自体が少なかったり、そうでなくともマイノリティの実力者大半が、既存の政治家集団で代表される多数の属性のごく一部についてのみしか存在しない場合、無理にクオータ制でマジョリティとマイノリティの数をそろえようとすると、その属性を持つ者の過剰代表を招いたり実力不足の者が候補者となる恐れがあるという点である。私は少なくとも現在の日本ではそのような状態は存在しないかあったとして大したものではないと認識しているが、もし万が一世界に社会的要因によりマイノリティ中の有力者が特定の属性に偏って存在する地域があるのであれば、無理にマイノリティとマジョリティの数を人口中の比率と一致するようにするのではなく、マイノリティに属する者の一部ではなく全体が十分に高度な教育を受けられるようにし更にそれらの人々の政治参加を促進することで対処することがより望ましい可能性がある。

以上のことから私は現時点ではクオータ制の採用には消極的である。クオータ制は、確かに特定のマイノリティを保護することに貢献するかもしれないが、その代わり他のマイノリティの代表に不利益が集中する可能性がある。そのことが私の杞憂であることが十分なレベルで証明されるか、その問題への有効な対抗策が編み出されるまでは、私はクオータ制の導入を支持しない。ただ、誤解しないようにしてほしいのは私が何が何でもクオータ制に反対しようとしているわけではないという点である。私の基本的なスタンスはある制度を採用することが多少の不公平を生じさせる代わりにそれ以上の不公平を解消することに繋がるのであれば、それを採用することを肯定するというものである。しかし私は現時点ではクオータ制は先述の問題について議論不足であり、不公平を解消するためにより好ましい方法であることが確認できていないと考えるためその導入に賛同しないのである。

クオータ制の代替案

だが、もちろんだからと言って差別によって不利益を被っている人々がいないわけではなく、それに対しては完全な解決には繋がらないのだとしても何らかの対策を打つ必要がある。私はその方法としては以下のものを推奨する。

・比例代表制あるいは移譲式の採用
日本の一人選出の得票数順当選制(※小選挙区制と呼ばれている)がメインの制度の下では、ある選挙区に同様の政策を掲げ同等の実力を持つ候補者が男女のそれぞれに一人ずつ存在し、なおかつ他の候補者の支持政策の質と実力が明らかにその二人を下回るのだとしても、女性に少し不利な投票の傾向があるだけで男性候補の方が当選し、女性候補が持つことのできる権限はゼロとなる。しかし比例代表制や移譲式では、そのように最も多くの票を得た候補のみが当選者となるわけではないため、多少偏見によって獲得票が減ったのだとしてもある程度の得票があった候補は議席を持つことになる。従って、女性や若者等の能力が過小評価されやすい集団は、現在の政治家集団内の男女間格差の根源である制度よりはずっと良い結果を出すことができるはずである。


・投票者の選択

投票者の中に特定の属性を持つ者に対して差別的偏見から投票を避ける者がいるのであれば、別の投票者がそれを埋め合わせることが必要である。従って、投票者は同程度に支持できる候補者が複数人存在し、その中に差別によって不利な扱いを受けている存在がいるのであれば、その人に優先して票を投じることが推奨される(そしてこの意識は積極的に社会に広めていくべきである)。投票者がこのような選択をするだけであれば、クオータ制を採用した場合のように候補者集団から少数派が排除されることはなく、投票者の少数派もあくまで同等に支持できるときに限って被差別集団に票を投じればいいだけであるので、依然として自身が強く支持する候補に票を投じ続けられるのである(※1)。

また、そもそも投票者は、女性差別的な制度や構造がある社会では、それを解決することを目指す候補に優先的に票を投じるべきである。これはつまり各候補者への総合的な評価値(厳密な数値である必要はない)を算出する際に、女性が不当に不利な状態におかれている社会ではそれを改める政策を掲げる候補にいくらかの加点を行うべきであるという意味である。

※1:クオータ制採用時はそれにより支援されないマイノリティが、まず候補者集団内から排除されることで候補者としての不利益を被り、同時にそれによって望ましい投票先が消失することによって投票者としても不利益を被る恐れがある

 

 

・各政党のとるべき行動

政党は自党が擁立する候補者を決める際は、原則としてその志願者の評価を、実力や支持政策等の政治家としての資質を評価する際の判断基準として正当である属性に基づいて判断しなくてはならない(※性別がそれに該当するためには相応の理由が必要であり、性別に基づいて判断する枠を設けるのだとしてもその枠数は限定的なものでなくてはならない)。ただし、その際、それらの観点から導き出された評価値が同程度の志願者が複数人存在し、そのうちに差別が原因で代表者が過少となっていると考えられる集団に属する者がいる場合には、その人を優先的に候補者として擁立したほうが良いだろう。そのことは国民の各集団の間で不公平感を生じさせないようにし、無自覚的な偏見に基づく評価によって特定層に不利益が生じることを避けるために必要である。また、志願者の実力には集票力が含まれるが、その力が差別によって低下させられている者についてはその低下分をその者の集票力に加算して評価しなくてはならない。

補足:政党は候補者を実力のみを基準として選べばいいわけではない。場合によってはいくらか総合的な実力が低くとも人々にとって重大な特定の分野についての専門家である者を民意の反映度を向上させるために積極的に候補者として擁立するように努めなくてはならないこともある。どのような分野を専門とする者を候補とするのかは、世論調査の結果や政党の理念などを元に考えると良いだろう。党内で意見が割れる場合は議論を尽くすことで意思を統一するべきであるが、それができない場合は相反する政策を支持する複数の者を同時に候補とすることが考えられる。また、そもそも政党の候補者の候補自体が少ない場合は政党の側から積極的にそれらの候補を探しに行かなくてはならないこともある。


・候補者名簿作成に多数かつ多様な人間を関わらせること
少数かつ思想が均質な人間のみで候補者を決定する場合、独善的な価値観によって候補者名簿が作られる恐れがある。従って、その作成の家庭には多数かつ多様な人間の確認が入るようにするべきである。もっとも政党とは特定の思想を持つ者が集まってできる集団であるためそこに属する者の思想にある程度の共通性があるのは当然のことであり、多様さが重視されるとはいっても党の理念に無関係な者による統制を拒否することは正当である(※なお、その理念というのが差別的なものであれば当然非難されるべきであり、国民はそのような理念を持つ政党に投票するべきではない)。

また、候補者の決定にはマイノリティに属する者も関わるべきであるが、それは基本的にマイノリティがマイノリティであるという理由で候補者に選ばれることを是とするものではない。候補者の決定は、透明性を確保したうえで、公正公平な観点から行われるべきである。ただし、純粋に差別を解消する政策を立案し実行する能力を評価したとき差別による不利益を被っている集団にその能力が高い者が多くなる場合には、結果的に差別を解消するための候補者の枠にその集団に属する者が多くあてはめられることになったのだとしても問題はない。

・人々の政治参加を妨げる不当な障壁を取り除くこと

女性には妊娠や出産による負担が存在し、それにより立候補をあきらめる者も存在するようだ。しかしそれらの女性にも立候補する権限は存在するのであり、それがまっとうな理由なしに実質的に制限されることは避けるべきである。従って、妊娠や出産をすることが議員としての活動を困難にさせる状況は積極的な支援によって改善しなくてはならない。また、男女を問わず育児をする者が政界への進出を妨げられるようであってはならない。それは道徳的観点から当然のことであり、実利的な観点で見ても適切な少子化対策を理解する人々を政治の世界から排除し日本の少子化を加速させる恐れがあることから望ましくない。

上記以外には人々の政治参加への意欲を削ぐ各種のハラスメント行為への対策も推し進めるべきである。


・立候補が困難である状態の緩和
既存の政党や政治家の全てがマジョリティの価値観による偏りがある事態に対処するために、マイノリティ集団が新たに代表者を排出することが十分に容易であるようにしなくてはならない。例えば、日本では立候補を志願する者に課せられる供託金の額は引き下げられるべきである。このことについては後の選挙実践の部分でより詳しく触れるが、供託金の過大が資金力が低い傾向にある若者や女性の立候補を阻害している。

 

属性ごとに議席の比率を定めるクオータ制について

各政党の候補者名簿ではなく議会の議席について性別や民族等の属性ごとに達成しなくてはならない保有率を定めるクオータ制は、国民自身がその比率と合致しない議員構成を求める場合にも、それを実現することを不可能とするため、民衆自身の政治的決定権を制限するという点でいくらか民主主義に反するものである。私自身は十分な水準の民主制を求めているのであり完全な民主制を求めているわけではないため、属性ごとの議席比率を限定するクオータ制を導入することの道徳的利益が大きな場合はやはりこれについても私が支持する可能性がないわけではない。とはいえ、本音としては、フィンランドのようにクオータ制なしで男女が同数に近い状態に到達した国もあるため、できることなら日本にはそれと同じようなルートを通ってもらいたいところである。

どうしてもクオータ制を採用する場合

どうしてもクオータ制を採用したいのであれば候補者の枠自体を増加させることで、少数派の意図しない排除の効果を抑えることができる。ただしこの方法は根本的な問題解決にはならない。何故ならば、新たな枠を作ったうえでクオータ制を採用しなかった場合に代表されていた少数派が、クオータ制によって排除されることになる構造が依然として存在するからである。特に現状の制度が少数派過少の傾向が強い場合には候補者の増加のみを行いクオータ制の採用を避けることが推奨されることとなる。また、そもそも候補者の枠を増加させることは、国家や政党に受容しがたい大きさの費用が掛かったり候補者乱立による弊害を生じさせたりするため無制限に行えるわけではない(ただし費用についてはその要求される大きさにもよるが民主主義の質の向上が優先されるという理由で国家の支援によって負担することを正当化しやすいかもしれない)。


最適な選挙

選挙制度理想条件達成法

既にふれた通り選挙制度を構築する際には、「ゲーム化阻止」「権限の平等」「結果の平等」「民意の反映度の向上」「実利的観点からの選挙理想条件達成の制限」の達成を目指さなくてはならない。

◇ゲーム化阻止
ゲーム化を阻止するためには、得票数順当選制の落選者の票と過剰分の票の双方を移譲する移譲式を採用するか、比例代表制を採用することが必要である。ただし、比例代表制を採用する場合、候補者となる集団の合併や分割が各候補者が獲得できる権限や議席の大きさの大きな変動に繋がることを防ぐようにするべきである。

◇権限の平等
選挙を行う地域を複数に分割し、そのそれぞれで独立して代表者を選出する場合は、各選挙区の[定数/有権者数]の値が同一となるようにするべきである。また、各選挙区内において、各有権者が持つ投票権の大きさに差が生じないようにしなくてはならない。

◇結果の平等
結果の平等を達成するためには、ゲーム化を阻止するときと同様に、得票数順当選制の落選者の票と過剰分の票の双方を移譲する移譲式を採用するか、比例代表制を採用すると良い。


◇民意の反映度の向上
・少数意見を排除しない制度の採用
民意の反映度を向上させるためには、各選挙区の定数を十分に大きなものとしたうえで、得票数順当選制の移譲式の選挙制度か、比例代表制を採用することで、少数派の意思が選挙結果に反映されやすくすることが必要である。そうすることで、投票者は得票率が低いが自身の方針とより合致する候補者に意味のある形で票を投じることが容易となる。

・候補者不在の阻止
投票者は投票の際に自身にとって最善の候補者がいない場合、投票先を失うか、妥協して次善の候補に投票することになる。そして、このとき妥協の程度が大きいほど、投票者は自身にとって実行されることが望ましい政策を候補者に求めることを、より多く諦めることになる。

そのような事態を防ぎたければ、候補者の数を増やしその内容を多様にすることで、投票者が自身にとってより最善に近い候補者に票を投じられるようにしなくてはならない。そしてそのためには、特定の思想傾向を持つ人々の集団が、制度や社会構造が原因で不当に立候補が妨げられることのないようにし、またそれらの人々自身が自ら積極的に立候補することが必要である(例えば、現在の日本では最低でも資金力が低い若者や女性に対しては、供託金の引き下げを行うべきではないだろうか?)。

・定数過少の阻止
各選挙区の定数が小さいと、候補者が十分に多数かつ多様である場合にも、結局は投票者の票は次善の候補に移譲されるか死票となることになり、投票者のより小さな意志は選挙結果に反映されないこととなる。従って定数は最低でもある程度大きなものである必要がある。そして、かつての私の直観によれば、一つの選挙区の望ましい定数の大きさの最低値は、10~100であった。何故ならば、その場合は採用する制度次第ではあるがおおむね1%~10%の得票で議席を得ることができ(※1)、同時に私は「1%を超えるほどの票を得た候補は議席を1つぐらいは得るべきであり、それが無理でもせめて10%もの票を得られた候補が議席を得られないことは避けなくてはならない」と感じていたからである。しかし、現実を見ると世界のどこにも定数が100であるような選挙区は見当たらないため、そのレベルの大きさの定数には何かしら問題があるのかもしれない(※議席の総数が過大となったり衆愚政治を招いたりする恐れがあるのかもしれない。あるいは能力の低い候補の当選が容易となる)。従って現在の私は、これも私の直観に基づくものに過ぎないが、定数は最低でも8~10程度の大きさとするようにし(※2)、それ以上はできる範囲で増やす程度でよいという考えを持っている。

なお、得票率が10%を超えないと議席を得られないような制度の場合に、1%の集団が政治的な影響力を持てないのかと言われるとそのようなことはない。何故ならば、候補者はより多くの得票率を達成するため、既存の自身の支持者の支持を大きく損ねない範囲になるが、1%の集団の意思を反映した政策を掲げるように努めるからである。

各選挙区の定数は、各選挙区の人口を等しくすることによってできる限り同数とすることが望ましい(各選挙区の人口を等しくするためには人口の少ない選挙区は合併し、人口の多い選挙区は分割すると良い)。何故ならば、定数の大きさが民意の選挙結果への反映度に影響するのであれば、定数の小さな地域と定数の大きな地域の間で民意の反映度に不公平が生じるからである。ここで人口の多い地域は反映するべき民意の種類も多くなるため、定数を増加させても民意の反映度に変わりはないと考える者もいるかもしれない。しかし、これは後の国会議員数の理想値に関する考察の部分で触れるが、人口が増えればそれに比例して政治に反映させるべき民衆の意思が増加するわけではない。従って人口に比例する形で各選挙区の定数を定める場合、定数の大きな地域は、定数の小さな地域よりも民意の反映度が高まることとなるのである(※3)。

※1:最終的な議席一つ当たりの得票率は【100(各候補の得票率の計)/定数(議席数)】であり、各議席間で最終的な得票率(比例代表制では各候補の得票率を各候補の獲得議席数で除算することによって各議席の得票率を算出することができる)に大きな差が生じない制度を採用する場合は、おおむねその値を超える得票率を得ることができれば議席を獲得することができる。なお、ドループ基数を使う移譲法や占有倍率最適化法にはこのことは当てはまらない。

※2:8議席や9議席の場合を容認するのは、定数がその値である場合でも、乖離度最小化法では得票率が10%付近に達すれば他候補の死票分を利用する形で議席を得られることが多いからである。

※3:もし民衆自身が納得するのであれば、各選挙区の定数を人口に比例しない形で設定することを受容し、各選挙区の民意の反映度を公平にしたまま、各選挙区の定数が同一でない制度を用いることができる。しかしその場合各地域が人口に応じた影響力を持てなくなるという点には気をつけなくてはならない。


◇実利的観点からの選挙理想条件達成の制限
権限の平等は、地方分権を重視する際には制限を掛けたほうが良いこともある。例えば地方の自治権が大きな連邦制の国家では議会の地方の代表としてつくられた院については、各地方の代表者の数が各地方の人口に比例する大きさであることが絶対的に望ましいわけではない。また、年齢によって立候補権や投票権が制限されることも、ある程度まではやむを得ないだろう。

民意の反映度の向上は、それを実現しすぎると衆愚政治に陥る恐れがあるため、ほどほどにしておくべきである。民衆の代表者は民衆が直接選ぶべきであるが、後に解説する行政権を持つ者については民衆自身ではなくその代表者によって選出されるようにした方が良いだろう。また、議会の議員は多くなりすぎると議論が効率的に行えなくなるため、その数についても過度にならないようにするべきである。選挙区の大きさも大きい方が投票者の選択肢は増えるが、既に触れた候補者の負担増等の弊害への対策として、過度な大きさとならないようにしなくてはならない。

 

最適な選挙程度の具体例

以下では以上の内容を踏まえたうえで、私が導き出した日本における理想の選挙制度を解説するものとする。ただし、この内容は十分な検証が行われたものではないため、読者が実際に選挙制度を構築しようとする場合には、自分自身で内容を精査することを忘れないようにするべきである。また、私は選挙の実務的な側面についての情報(票の自動分類機やコンピュータ集計の信頼性、集計にかかる費用や労力に関する情報)を詳細に入手することができなかったため、以下の解説にはその観点から現実的でないものが含まれている恐れがある点については注意してほしい。

私は日本の衆議院の選挙制度としては、以下に紹介する私が自ら考えた制度かドイツのように比例代表制と一人選出の得票数順当選制を併用した制度を推奨したい。また、参議院選挙では、超過分の票と落選者の票の両方を移譲する移譲式の選挙を推奨するが、それについては後の二院制に関する解説を行う部分で詳しく触れることとする。


私が個人的に考えた制度

私が考えた制度では、衆議院では比例代表制を採用し、投票者が票に、投票者自身が支持する政党を上位二党まで記述し、更にその際に記述した政党ごとに各党の候補者リストから自身が支持する者を上位三~五名まで記述することができるようにする。


・各政党への議席の分配
各政党に議席を割り当てる際は、まずそれらに【獲得票数/ヘア基数】の整数部分と同数の議席を付与する。次に、それによって分配された議席数の計が定数を下回る場合、余剰票(【獲得票数/ヘア基数】の値の小数点以下の部分)が小さな政党から順に、余剰票を持つ政党の数と既に分配された議席の総数の計が定数と一致するまで、余剰票を他の政党へと移譲する。その結果自身が最初から所有していた余剰票と他候補からの移譲によって手に入れた票の合計が基数以上となった政党があれば、それにはその余剰票の合計を基数で除算して求められた値の整数の部分と同数の議席を付与し、それによって付与された議席と同じ数の残存余剰票保有候補者を、既に議席の獲得に使われた得票以外の票の数がより小さな候補から順に落選させ、その票を他の候補に移譲する。

補足1:この余剰票に基づく議席の分配は、集計にかかる労力が増大することを受け入れられるのであれば、よりよい方法に変更することができるかもしれない。

補足2:次の移譲先が記されていない余剰票は、政党の獲得議席数の増加には寄与しないが、移譲元の政党内の個人の選出の過程に影響力を行使しても良い。


・各政党の候補者名簿内での当選者の決定
まず、各政党が獲得した議席の一定数あるいは一定割合(二分の一から三分の二程度)については、その政党に投じられた票で示される候補者名とその支持順位を元に、得票数順当選制の移譲式と同様の手段を用いることで行う。そして、残りの議席については、候補者名簿の上位の候補から順に付与することによって分配する。ただし、既に移譲式によって当選が確定している候補については議席分配対象から除外する。

ちなみに以上のように各政党の候補者名簿内部で当選者を決定する際に、当選者を完全に民衆によって投じられた票に記された候補者名によって決めないのは、政党が得票率が低いが党にとって重要な人物や有能な人物を戦略的に議員とすることができるようにするための措置である。

 

・集計処理の簡易化について

政党間で票を移譲する際には、移譲される票の個人への支持の情報を移譲先に反映させる処理が、特に基数以上の票を有する政党から票を移譲する場面で複雑化する(※1)。手作業で集計を行わなくてはならない場合のようなどうしても複雑な処理をさけなくてはならない状況では、政党間の票の移譲は行わず単に余剰票の多い政党から順に分配しきれなかった議席を付与するようにし、各政党内での個人の当選者の決定においてはオリジナルのグレゴリ法を使用することが考えられる。その場合、戦略的投票による結果の操作が行われやすくなるが、それを踏まえても現在の日本で採用される選挙制度よりは公正な結果を導くことができる。

※1:政党間で票を移譲する際には、票を物理的には移譲せずに概念上の操作において各政党の票数を増加させるだけでよい。それにより各政党の議席数を確定させた後、各政党内で個人の当選者を決定する際には、移譲票の移譲元の得票内において票を移譲先の政党ごとにグループ化し、更にそれらのグループの内部で移譲先の政党内での個人の選出と連動する形で個人名に基づく票のグループ化を行い、それらのグループの票の数にそれらのグループが属する政党の超過率(移譲価値)を乗算したものが移譲先の政党内に存在するものと考えればよい。むろん、集計をコンピュータを用いて行う際には、正しくプログラムが組まれていればデータの入力後には以上のような複雑な票の操作を人間が行う必要はない。コンピュータ集計における信頼性を確保するためには、票のデータの不正入力を防ぐために票の内容のデータ化の過程と票の内容とコンピュータ上に蓄積されたデータが一致することを多数の派閥から選出される多人数が確認できるようにしたり(意義が唱えられた場合はデータ化作業をやり直す)、不正な集計を防ぐために入力されたデータを一般公開し一般人や有識者が独自に集計過程を再現できるようにしたりすることが必要である(一般人の計算ミスによる異議申し立てが生じることはやむを得ない。それを抑制するためには公正で信頼性の高い選挙結果検証機関を政府あるいは民間組織が複数作成し、それらが独自に集計を行うことが必要である)。票の内容のデータ化は、票をマーク式にすると自動で行いやすくなる(候補者が多い場合は投票用紙が大きくなることを覚悟しなくてはならないかもしれない)。機械によって投票用紙を読み込む際は、当然その機械の信頼性が重要となる。


・区割りと有権者数及び定数
投票と集計は日本全体を複数の地域に分けてそのそれぞれで個別に行う。このとき、各選挙区の定数はそれらの【定数/有権者数】の大きさが可能な限り等しくなるように定めなくてはならない。また、各選挙区の有権者数についても極力同数に近づけることで選挙区間で民意の反映度に差が生じることを抑止するべきである。以上の調整の制度を高めるためには、都道府県を跨いだ区割りや、一つの都道府県を複数の選挙区に分割したりすることができるようにすることが必要である。

各選挙区の定数は、有権者数を得票数、全選挙区の定数の和(総定数)を定数に見立てたうえで、比例代表制の分配法を用いることで定めることができる。そして、【定数(獲得議席数に該当する)/有権者数(得票数に該当する)】の値が各選挙区の間で等しくなるようにするには、普通に考えれば定数の決定の際に占有倍率最適化法を活用するようにした方が良いと思われる。しかし、そもそも各選挙区に分配される議席数が多いことからいずれの手法でも正確な結果が出やすいため、乖離度最適化法を活用したところで大きく結果が替わることは(おそらく)ないだろう。

なお、移譲式のところでも触れたが、全ての候補者に順位をつけることができない移譲式は、候補者数が票に記述される候補者の名前の数を上回れば上回るほど、戦略的な性質が強まることになる。従って、各選挙区の各政党が擁立する候補者数を抑制するためにも、選挙区は過度に大きくならないようにし、政党は選挙区ごとに名簿を作るようにするべきである。

・区割りと公平性
区割りの公平性を保つため、区割りは中立性が保たれる第三者機関が行うようにするか、それができない場合はどちらかといえば少数派が人数より多くの力を持てるようにするべきである。このとき誤解してはならないのは、区割りの際にめざすのは公正公平な基準による分配であり、区割りを行う権限を持つ各勢力が自勢力に有利な分割を行おうとすることは自制しなくてはならないという点である。


・阻止条項
阻止条項(得票率がある水準を超えない政党には議席を付与しないことを定めた条項)は、少数派の弾圧に繋がるため基本的に設置しないようにすることが望ましいが、もし設定するのであれば、各政党の全選挙区での得票率に対して1%~3%程度のものを設置すると良いだろう(ただし複数の選挙区で議席を得た場合はその割合を超えずとも議席を獲得させる)。そうすることで、極小政党の発生が防がれあるいは極小政党の合併が促され、過度な政党乱立とそれによる議会の混乱を避けることができる。ちなみにドイツでは少数民族政党などの例外を除き5%の足切り条項が設置されているが、これはかつてのドイツで小党分立状態が政権の不安定さにつながりそれがナチスの台頭を招いたと考えられているからである。ただしそれに対する異論もあるという点には注意が必要である。


・票の有効性と取り扱い
票は、支持政党を一つ以上記述されていれば、支持政党を2位まで書ききれてなかったり候補者名が記述されていなかったりしても有効票となる。また、候補者名のみが書かれている票については、政党内部の候補者の当選順位を決定するのには使っても政党に配布される議席を増やすことには反映させないようにする(※1)。そして、政党と候補者名が一致しない場合は、政党名のみが書かれた票として処理するか、票に記入された候補者名のうち有効であるもののみを政党内部の候補者の当選順位の決定に活用する。

※1:このようにする理由は、そのような票を票に描かれた候補者が属する政党の議席を増やすことにつなげると、有名タレント等を採用した政党が自党が支持されているわけでないにも関わらず議席を増やすことができるようになるからである。また、場合によっては党内の思想Aに投じられた票が思想非Aの当選に流用されることにもなりかねない。そのようなことをやむを得ないこととして受容するのだとしても、せめて政党名が書かれたことで政党の候補者名簿への一定の賛意が示された場合に限定するべきである。誤って候補者名のみを票に記述した者の票の効果が弱まることについては、事前の制度に関する情報の周知を徹底することによって対処する。


ドイツの比例代表小選挙区併用制

※以下は文量削減のため詳細な点が解説されていない。従ってこの制度を実際に採用するのであればドイツの制度についてより詳細に調べてからにするべきである。

ドイツの制度では、投票者は二種の投票を行う。一つは個人への投票であり、一つは政党への投票である。個人への投票では、全議員の内の一部(総議員数の半分)を一人選出の得票数順当選制を行うことで選出する(※1)。そして政党への投票では、比例代表制によって各政党の獲得議席数を決定する。

各政党は政党への投票によって獲得した議席数が、個人への投票によって当選した自党の議員の数を上回る場合、その上回った分の議席を事前に定められた候補者名簿に基づいて自党の候補者に割り振ることになる。逆に、ある政党について個人への投票による当選者数が政党への投票によって分配された議席数を上回った場合、その政党は個人への投票で当選した議員全員を当選者とすることになるが、その代わり他党もその政党の議席の増加によって不利にならないために調整議席によって新たに候補者名簿から当選者を出すことができる。なお、このとき、議員の総数が増加することは受容される。

以上の制度は言い換えると、各政党の議席数を比例代表制によって、そしてそれらの議席が割り当てられる個人を事前に定められた政党の候補者名簿によって決定する制度を基本としつつ、各政党の議席の一部(場合によっては全て)については投票者が直接割り当てる対象を決められるようにした制度である。それを用いることで、各政党の候補者名簿作成の権限を持つ者に権力が集中することを抑制することができる。

この制度は比例代表制によって各政党の獲得議席数を決めるため、現在の日本の制度と違い少数意見が切り捨てられず議会の構成が実際の民意の構成に近いものとなる。更に、個人への投票も行われるため、投票者は政党ではなく人を見て代表を決めることができる。これらの理由から、この制度は日本の選挙制度改革を行う際の有力な選択肢の一つであると考えられる。

ただし、私は特定の政党内部の議席分配が、一部ではあるが他党の支持者の票に影響されるという点についていくらかの疑念を感じている。また、各政党の得票数順当選制によって代表者となる個人が定められる議席は、いずれかの地域で最も多くの票を得た者でないと獲得できないため、少数派にとって不利である。そのため、本著では十分な検証と修正がなされることが前提となるが、ドイツの制度よりも先述の私自身によって考えられた制度の方を採用することを推奨する。

※1:こちらでは政党へ所属しない議員も立候補できる

 

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