この記事は書籍「世界の基礎」の一部です。
選挙等によって民衆によって選ばれた政治家が政治を行う制度を「間接民主制」という。また、民衆に選ばれた政治家ではなく民衆自身が直接政治を行う制度を「直接民主制」という。現在の主要な民主国家においては「間接民主制」を主として採用しつつ、一部に「直接民主制」を取り入れることで民主主義を実現している。
・なぜ間接民主制か
間接民主制は実際に政策決定を決めるのが国民ではなくそれに選ばれた政治家であるという性質により、直接民主制と比較すると民意が正確に反映されない側面がある。民主国家においても民衆の多数派が支持する政策が政治に反映されないことが多くあるのはそれが理由である。しかしそのような性質があるにも関わらず現代の民主国家においては間接民主制が主な制度として取り入れられているのには理由がある。
第一の理由は政治的な判断のすべてを国民が直接行おうとすることは国民自身や社会に対して受容することが困難な大きさの負荷をかけるからである。人々が自身が属する地域の政策を直接的に決定しようとする場合、必然的に人々はそれらの政策に関する事柄について自ら情報収集、判断、意思の表明等を行うことが必要となり、なおかつ社会がそれらの意志を確認するために労力を割いたり費用を負担したりすることが必要となる。しかし、政治において行わなくてはならない判断は数多く存在し、その全てについてそれほどの労力をかけるのは現実的ではない。もし政治上の全ての問題について国民が直接判断を行う制度を強行的に実施するのであれば、人々が仕事や個人的な活動に割くことができる時間が減少するか、あるいは民衆の政治への無関心を招き各個人が政治について自ら決める事柄はその領域のごく一部に留められるようになるはずである。従ってそのような事態を避けるためにも、国の政治上の判断の内国民が直接行うものはその必要性がより高い一部の問題(選挙における政治家の選出や改憲の是非の決定等)に限定し、それ以外は国民に選ばれた政治家が話し合って決めるようにすることが必要となるのである。そのようにすれば、政治の詳細な判断を政治家という全人口の一部の人々に任せることで人々全体から政治のために奪われる時間をより小さくすることができるし、人々は根本的な価値観が自身に近しく責任感をもって政治に取り組む代表者を選ぶことで、その代表者を通して政治の幅広い領域に影響を及ぼすことができるようになる。
そして、第二の理由は政治の質を向上させるためである。選挙で政治家を選ぶ場合はあまりに何も学ばない人間は当選する可能性が低くなる。その結果国民に選ばれた政治家の能力の平均と国民全体の能力の平均で見れば、前者の方が高くなると考えられる。また、政治家になった者には国から給与が支払われるのでその人は政治に関する学習や活動に専念することができるようになる。この事実からも選ばれた政治家が政治を行う方が政治の質は高まると考えられる。(ちなみに、各国の議会では議員の活動に対して、「秘書の配属」や「議員図書館の設置」、「議員が立法する際に補佐をする機関の設置」等による支援も行われているが、もし現時点でそのように議員の支援を行う制度が不十分であるならばそれを強化したほうが良い。議員が専門家の協力を得やすくしたり、人々との交流を行いやすくしたりすることが考えられる。)
第三の理由は物理的な制約である。人々が直接議論しようとする場合同じ場所に集まる必要があるが、現代のような規模の大きな国家でそれを行うことは不可能である。しかし間接民主制により議論の参加者の人数を少なくすれば、政治を直接的に決定する人が同じ場所で議論をすることが可能となる。
現代の民主制国家においてはおおむね以上の理由から制度の中枢として間接民主制が採用されており、私自身もそれを採用することは妥当だと認識している。もしかするとそれらの考えの内に民衆の実力への不信などが含まれていることを問題視する人もいるかもしれないが、それでも私はその制度が「人々が政治家を選ぶ権限を持つことで実質的に政治を決められる力を持つこと」及び「政治の品質の向上により人々の生活をより安定して守れること」につながることから間接民主制を主な制度として採用することに賛同している。ただしそのように政治の質を高めるために政治についてより詳しい者に政治を任せるということは、国民が政治について学ばなくていいということを意味しない。何故ならば国民が無知であればあるほど政治家は選挙において間違ったことを主張することが容易になるからである。より良い政治家を選ぶためには国民自身が勉強することも大切であるということを人々は忘れてはないようにしなくてはならない。
・現民主国家に見られる直接民主制
直接民主制を実現する方法の代表例としては「国民投票」「立法に関する提案」「解職請求」などがあげられる。例えば日本においては憲法改正の際には「国民投票」が行われている。日本で憲法改正を成立させるには、議会の議員による憲法改正の発議の後に国民投票において国民の過半数の賛同を得る必要がある。
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