世界平和実現構想+α

世界の平和を実現するための方法を考えます

地方分権はなぜ必要か

この記事は書籍「世界の基礎」の一部です。

kanayamatetsuya.com

国政を担う政治家が国の各地域の事情を詳細に把握することは、その国の規模が大きいほど困難である。特に地域の数が大きく分けても数十に及ぶような国では、それらの全ての地域について固有の事情を十分に把握することは不可能となるだろう。従って、もしある程度の大きさを持つ国において中央政府のみに全ての政治を任せると、必然的に地方においては現実を無視した政治が行われる可能性が高まることとなるのである。また、中央政府の政治家は全体の効率を重視することで、一部の地域の利益を無視しようとすることもときにはあるかもしれない。

現在の多くの民主国家では以上の問題に対処する手段として、各地域においてその地域を一定の権限を持って独自に統治する地方政府を用意し、更にその政府を構成する者についてはその地域の住民が選挙によって自ら選ぶことができるようにするという方法が採用されている。このようにすることで、各地域の統治がその地域を専門的に把握する人員によって行われることになり、地域の実態に合った政治がそこで行われれるようになるのである。また、地方政府の人員を住民が直接選ぶことによって、各地域の統治が十分に自らが治める地域の利益を考える者によって行われることにもつながるのである。

地方分権の実現はもともと一つではなかった国家を一つにまとめる際にも役に立つ手法である。統合を目指す各地域に対して、それが実現した際には適度な自治権を認めること及び中央政府による地方自治権の制限は一定の条件を満たした場合のみに行えるようにすることを約束することで、それらの地域をまとめることはある程度までは容易になるはずである(ただし、そのように複数地域の統一を目指す者は、各地域に自治権を認め過ぎると後の中央政府による統制が弱まることになるという当然の事実を理解し、認める自治権の程度については総合的に見てバランスの取れたものにするよう努めるべきである)。

地方分権は人々が自分のことを自分で決めることを促進するという点から望ましいものではあるが、その程度を強めることが常に最善であるとは限らない点には注意が必要である。時と場合によっては、中央政府に優秀な人材と権力を集中して政治を行ったほうが人々の生活の質をより高めることに繋がる可能性がある。

補足:もちろん国政においてもそれぞれの議員には出身地域が存在するのであり、それらの議員がいくらか自身が属していた地域への暴政への抑止を行う可能性はある。しかし特定地域出身の議員は国の政治組織全体で見ればごく一部を占めるにすぎず、地域の利益の確保をする能力は十分とは言えないだろう(そしてそもそも国政を担う政治家は特定地域のみに偏った判断をしてはならない)。従ってその観点からもやはり各地域の利益を守るためには適度な自治権を持った地方政府を用意することは必須であるといえる。

補足2:シンガポールのように国家の規模が極めて小さい場合は地方分権が不要となることもある。

 

 

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