世界平和実現構想+α

世界の平和を実現するための方法を考えます

憲法とは何か、憲法が有効であるための条件【+緊急事態条項、永久条項、その他】

この記事は書籍「世界の基礎」の一部です。

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憲法とは

憲法とは国家の統治の基本的な在り方を定めた文章の集まりのことである。世界の国家の中には憲法と呼ばれるものを持たない国も存在するが、そのような国においても憲法に相当するもの自体は存在するのが通常である(それらは実質的意味の憲法と呼ばれている)。そして現在の民主国家においては、憲法は政治権力の濫用を防ぐことを目的として政治家に課されたルールとしての側面も持ち合わせており、それは民主主義を維持する上ではなくてはならないものであると言える。何故ならば、そのような政治家が従わなくてはならないルールが予め定められていないことは、一度政治家になった者が次の選挙までの間にその権力を悪用したり次の選挙を開催しなかったりしてもそれを否定する根拠に欠けることに繋がるからである。従って、それを防ぐためにも民主国家設立の際には人々は憲法において政治家が政治権力を任せられている間に従うべきルール(侵してはならない民衆の権利)や選挙の開催に関する規定を明確にしておくべきであり、さらにはそれに後に説明する権力分立の原理等を定めておかなくてはならない。

憲法の自主的尊重

憲法はそれを用意しただけでは効力を発揮しない。その効果は多くの政治家が自ら憲法を守ろうとすることで初めて現れるのである。もし政治家の全てが憲法を無視した行動をとり始めるのであれば、憲法が機能不全に陥ることは避けられない。従って政治家は自身への統制を無効化しないようにするためにも自ら積極的に憲法に従った行動を行おうとするべきである。また、国民は憲法による政治家への統制が弱まらないようにするためにも、自らそれを尊重する意思のある人間を選挙において選出しなくてはならない。

・憲法違反への対処
政治家は自身以外の政治家が憲法に違反しようとしているときには、憲法によって自身に認められた権限を用いることでその人を抑止しなくてはならない。国民は憲法を尊重しない政治家あるいはその集団がいる場合には次の選挙においてそれらへの投票をさけなくてはならない

民主主義の尊重

国民に政治権力を委任されたものは、憲法のみならず民主的な規範にも自ら従わなくてはならない。政治家のそれぞれが自制を忘れ自身の思惑を実現するために自身の権力を思う存分振るおうとすれば民主主義やがて崩壊することになるだろう。政治家は憲法で認められる範囲の行動についても民主主義の破壊につながるものについては慎まなくてはならない。そして、国民もまた政治家がそれを実践しているかを十分に監視するべきである。

憲法違反について

政治家は原則として憲法に従って行動するべきであり、その条文に問題が存在する場合にも憲法に反さない範囲の行動によって憲法を改正するなどしてそれに対処しなくてはならない。しかし一方で私は政治家が常いかなる時も憲法に従うことが絶対に正しいとは思っていない。もし政治権力を握る人々が憲法に従うことが致命的な損害を人々にもたらすような状況が本当に訪れたのであれば、それらの人々が憲法に従わないことが妥当となることもあると私は考えている。だがその場合は政治家は自身に対して憲法に従う人々による抑止権の行使が行われることを覚悟の上でそれに反するべきであり、もし自身への抑止を防ぎたければ抑止権を持つ人々を十分に説得してから行動を起こすべきである。また、一部の人々が憲法に従わないことを選ぶ場合、それらの人々と憲法に従う人々との間に衝突が起きることが予測されるが、その衝突による社会の損失は当然抑えるための努力が必要である。そしてそのための努力としては「憲法を破る際にはその範囲を必要最低限に抑える。」「憲法を破る際には道徳に従った方法でそれを破る。」「憲法に従うことによって生じる不利益が人々にとって致命的なものとならない限りはそれを破らない。」「憲法に違反する際には事前に他政治家や国民からより多くの賛同を得るようにする。」ということが行われるべきであると私は考える。

 

 

憲法改正の条件

憲法改正の条件が厳しいことは憲法の条項をより良い状態に保つという観点からは必ずしも有利ではない。何故ならばそれは憲法に悪しき条項がある場合にも容易に改正できないことに繋がるからである。私は憲法改正の条件をある程度厳しく設定することを、多数派が一方的に国のルールを定めることを防ぎ、更には憲法改正における議論の深化を促すことを目的として支持する。

そして少し前に日本において現在の与党である自民党により日本の憲法改正の条件(国会の2つの院のそれぞれで全議員の3分の2の賛同を得た後、国民投票において有効投票数の内の過半数の賛同を必要とする)は厳しすぎるので改正するべきではないのかとの疑念が示された。しかし私は自民党の憲法改正の発議の条件を現在の3分の2から2分の1にするべきという提案には反対である。何故ならば私にはそのようにすれば議会の多数派が十分な議論をせずに憲法改正を行うことが度が過ぎて容易となるように思われるからである(とはいえ、別の緩和案であれば賛同することもあるかもしれない)。一方で、国会により憲法改正の発議が行われた後の国民投票において、最低投票率設定しそれを下回った場合にはその投票を無効とするという案にも現時点では否定的である。もしそれを認めると、投票率がぎりぎり最低投票率を上回る程度であることが予見される場合に少数の人間が投票を拒否することで強制的に改正案を廃止することができるからである。もし憲法改正を承認する投票に参加しない国民がいたのであればそれは国民の責任である。

ちなみに日本で現在の憲法が成立してから一度もその改正が行われていないことの理由は、それをするための条件が厳しいことだけでなく憲法の内容が詳細ではないために政治家の裁量権が大きく、それを改正せずとも政治を取り巻く環境の変化に対応しやすいことにもある。

・複数の条項の不当な同時改憲

憲法改正のための国民投票は基本的には各条項について個別に行うべきであり、一度の国民投票で憲法の複数の条項をひとまとめに変更しようとすることは、それが憲法の条文全体の整合性や改憲によって実現する政治制度の安全性あるいは効率性を保つために必要な場合に限って認められることである。例えば、議会の多数派がそれ単体では国民に支持されないような独善的条項を憲法に加えるために、その条文を国民のより強い支持を得られる他の条文と同時に付け加えるような改憲案を作りそれについての国民投票を行った場合、国民は負の条項の追加に目をつむったほうが都合がよく感じられるのだとしても改憲に反対しなければならない。

 

緊急事態条項

世界には憲法に緊急事態条項を設置することで、緊急事態には行政府の権限を一時的に強化することができるようにしている国も多くあるようだ(権限の強化は権力分立の程度を弱めたり、人民の権利に平時より多くの制限を書けることを可能とすることで成される)。しかしそのような場合でも権力が全く制約のない状態となるようなことはないようにしなくてはならない。緊急事態の権力強化を認めるのであれば以下のような条件を満たすことが必要であると考えられる。

・緊急事態にあてはまる条件については事前に慎重に策定するべきであり、その条件を満たしたかどうかの判定は個人ではなく集団に任せられると同時に、権力が強化される機関の外部の存在によって行われることが望まれる。

・緊急事態において権力を集中させる対象は、その程度にもよるが集団であり個人であるべきではない。

・権力の強化の範囲は限定的にするべきであり、その制限については単に文章によってそれを定めるだけではなく、実際にその規定に強制力を持たせることができる仕組みを用意しなくてはならない。

・権力の強化には必ず期限を設定し、期限が来た場合には権力の強化は外部機関による継続の承認がなされない場合には停止されるべきである。また、権力が強化される機関によるその承認を行う機関への恣意的統制が権力強化中に行われてはならない。更にはその承認自体を停止できる権限を権力が強化される機関に与えてはならない。

・権力の強化期間中においても何らかの条件を満たした場合には外部組織がその強化を強制的に中断できるようにするべきである。

緊急事態条項を設置しない場合、人民の権利の保護の程度が平時と有事で同じとなり、憲法の人民の権利の規定が有時を強く意識したものである場合は平時の際にも人々の権利が過度に縛られることになり、平時を強く意識したものである場合は有事の際(パンデミック等)に人々の生命や生活を守るための施策(ロックダウン等)が行えなくなる恐れがある。


永久条項について

憲法を作る際には理屈の上では改正することを認めない条項を作ることも可能である。そのような条項は永久条項と言われている。しかし私は憲法にそれを作ることには否定的である。なぜならばそのようなことをすると、予想外の事態により憲法に書かれた条項が人々に不利益をもたらすことになった場合でも、それを改正することができなくなる恐れがあるからである。そして私が想像するに、現実の状態と憲法の永久条項に致命的な不和が生じれば、結果的に憲法そのものの作り直しにつながるだろう。だがそのようなことが行われると、憲法への信頼性が揺らぐと共に政情の不安定を招くことにつながる可能性がある。それを防ぎたければ永久条項は使うことは避けるべきである。もしどうしてもそれを用いることがあるとすれば、その項目はかなりの精査の上で最低限のみ設定するに留めなくてはならない。場合によっては悪しき永久条項を設定しようとする者も現れるかもしれないが、そのような行いには事前に強固に反対しなければならない(もし改正不能な悪しき条項が設置されてしまった場合には、私はその部分だけを改めた新憲法を作ることを支持する)。

いかに永久条項によって人々を縛り付けたところでそれが崩れる可能性を全く無くすようなことはできない。誰かが新たな憲法を作り、民衆の大多数がそれを支持し始めてそれに基づいて行動し始めると元の憲法は否応なしにその効力を喪失するからである。よい条項を残したいのであればどのみち人々の間でそれが支持され続けるような努力を継続しなくてはならない。

 

 

 

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