世界平和実現構想+α

世界の平和を実現するための方法を考えます

創造性を発揮するための環境

この記事は書籍「世界の基礎」の一部です。

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・環境による影響の大きさ
人の能力は環境の影響を大きく受ける。例えば日本の研究者は実際に環境の変化によって大きくその能力を向上させている。第二次世界大戦以前の日本人は西洋の進んだ科学を取り込むことに力の大部分を消費し、自ら何かを発見することは少なかった。しかしその後日本は発展し、多くの学術的成果を上げることに成功している(そのことは、日本が21世紀の最初の20年には現在の世界で最も権威のある学術賞であるノーベル賞の受賞者を自然科学の分野で米国に次いで世界で二番目に多く輩出するまでに至っていたことなどから確認できる)。残念ながら近年日本の研究力は著しく低下していることからその状態は長くは続かないだろう。だが、少なくとも少し前の日本の研究者がさらに前の日本の研究者よりも高い実力を持っていたということは間違いない。そしてそのように日本の研究者の実力が大きく変化したのは、当然ある日を境に突然日本に才能を持つ人が生まれるようになったからではない。日本人を取り囲む環境が改善されたからこそ、日本の科学力が向上したのである。

また、環境により人々の能力が大きく変わることを示す例は他にもある。近代の科学の中心は既に世界で知られている通りヨーロッパにあった。しかしそれは人類の歴史において恒常的なものであったわけではない。中世においては中東の方が西洋より科学が進んでいた時代もあったのである。しかし、それにも関わらずその地域が近代以降においては西洋に科学力で後れをとってしまった理由はやはり環境の変化にあると考えらえる。当然才能のある人間はいつの時代でも変わらずいるのであり、ある時代に特別多く生まれてくるわけではない。従って、才能だけで学問における成果が決まってしまうのであれば西洋も中東も世界全体でみたときの学術に対する貢献の度合いはいつの時代も同程度となるはずである。だが実際には人々の能力の高さには人を取り巻く環境が大きな影響を与えるので、歴史においてはどの地域が発展するのかが大きく変化してきたのである。

以上のことから、人が自身の能力を向上させるようと思うのであればその身をより良い環境に置くことも重視しなければならないという事実がうかがえる。世の中には自身の才能や努力を過信するあまり環境の大切さを軽視する人も多いが、実際にはそれらと同等かそれら以上に環境についても目を向けなくてはならないのである。

 

・どのような環境が好ましいか

環境は人の能力に大きな影響を与えるが、有利な環境とはどのようなものだろうか。ある環境がそこにいる人に有利なものとなるために必要な条件はいろいろあるだろうが、私はその一つとして質の高い情報の入手のしやすさがあるのではないかと思っている。質の高い情報を多く持っていれば、考えることの質も高めやすいだろう。例えば世界でもトップクラスの研究がおこなわれている研究室に属する研究者は有利だし、資金力が豊富な人も情報を集めやすい環境を構築できるのでこの点で有利である。

あるいは研究者なら、研究資金が獲得しやすい環境にいる者も有利かもしれない。研究資金の獲得に多くの時間をかけなくてならない場合は当然研究の時間は削られる。また、生活すらままならないような研究者はもっと不利だろう。日本では生活のために目先の成果を求めざるを得ないような研究者が増えていると聞くが、そのような状態ではじっくりと真に価値ある研究に取り組むことも難しくなる。

科学技術の発達により思考をサポートする道具や技術が充実した環境にいることも、思考力を高めることにつながる。人類はその歴史において、文字や紙を発明し、ついにはコンピュータをAIを生み出した。それによりそれ以前には処理しきれなかった膨大な量の情報を取り扱えるようになっている。今後も技術の発展により人類が扱える道具が進化し、それは人類の思考力の強化に寄与するだろう。遠い未来に脳を強化する技術が実現する可能性もあるかもしれない。もっともそれがいいものであるかどうかは別の問題である。

 

余談:中東地域が学術において先進的であった時代の有名な科学者としてはイブン・アル・ハイサム、イブン・スィーナー、ジャービル・ブン・ハイヤーンなどが存在する。イブン・アル・ハイサムは光学及び科学の手法の発展に大きな寄与をしている。ケプラーも彼の著作からその科学的手法を学んでいたようである。イブン・スィーナーは医学や哲学などの幅広い分野で大きな功績を上げた学者である。彼は医学の分野においては「医学典範」という医学書を執筆し、その書は後に西洋の医学校で教科書として使われていた時期もあるようだ。ジャービル・ブン・ハイヤーンは化学の分野に大きな影響を与えたと言われている錬金術師である。現在の学校の授業でもよく名前の挙がる硫酸や硝酸は彼の発明であるらしい。そして以上の例は私が本で知ったかつてのイスラム教圏における優秀な学者の内のほんの一部に過ぎなかった。その地域で科学において先進的であった時代には、他にも数多くの優秀な学者がそこから輩出されている。現時点では確かに中東と西洋を比較すると前者は科学研究の側面で遅れがみられるのかもしれないが、かつてはまぎれもなく世界において最先端の科学が発達していたのである。

 

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